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薬局発のエビデンス、その世界水準とは?

日加豪独 国際シンポジウム1

2018年11月27日 13:45

薬局発のエビデンス、その世界水準とは?

 薬剤師によるエビデンス構築の必要性が盛んに言われている。とはいえ薬剤師が、特に薬局薬剤師が臨床研究を行うのは容易ではない。まず、一体どんな研究が可能なのか、という出発点すら想像しにくいだろう。そこで、薬局業務先進国における臨床研究を紹介する。10月20日、京都大学医学部芝蘭会館で行われた日加豪独国際シンポジウム「今こそ、薬局業務を見直す時!」では、日本、カナダ、オーストラリア、ドイツの著名な臨床薬学研究者が顔を揃え、薬局発エビデンスの現状を報告した。

◎この記事のポイント

  • 高血圧:薬剤師の薬剤処方を含む介入で6.6/3.2mmHgの降圧増強(加RxACTION研究)
  • 単純性尿路感染症:薬剤師による抗菌薬処方(加RxOUTMAP研究)
  • 糖尿病:薬剤師のインスリン導入を含む薬剤処方による介入でHbA1cが9.1%から7.3%に低下(加RxING研究)
  • 心不全:高齢者でのアドヒアランスを比較するRCT開始(独PHARM-CHF研究)

薬剤師による薬物治療のエビデンスが揃う高血圧

 薬剤師が主体となって行う薬物治療とエビデンス構築については、各国で多彩な取り組みが進められている。そして、エビデンスが最も揃っている領域は高血圧だと、カナダ・アルバータ大学教授のRoss T.Tsuyuki氏は語る。実際、Santschi V.らのメタアナリシスでは39のランダム化試験が分析されており、薬剤師の降圧治療への介入で、通常の医師のみの治療より7.6/3.9mmHg血圧を下げたと報告されている1)

 Tsuyuki氏らがアルバータ州の23薬局で行ったRxACTION研究では、薬剤師の積極的関与で6.6/3.2mmHgの降圧効果増強が確認された。この研究では、血圧管理不良の248人のリクルートから薬剤師が担当。対照群は通常治療として、啓発資材と血圧記入カードを渡し、開業医を紹介した。介入群では、薬剤師がカナダ高血圧ガイドラインに従って血圧と心血管病リスクを評価、患者教育を行い、降圧薬を処方し、検査をオーダー、月に1度経過を観察した。すると、ベースライン時の血圧150/84 mmHgが6ヶ月後に介入群で18.3/8.0mmHg低下し、それは対照群の11.8/4.9mmHgより有意に大きな降圧幅だった2)。(図1)。

図1. RxACTION研究;血圧管理不良高血圧患者に対する通常治療と薬剤師積極的関与(6カ月間)の比較

22281_fig1_1.png(Tsuyuki RT, et al. Circulation 2015; 132: 93-100)

 さらに、単純性尿路感染症(uUTI)でも同様の薬剤師による薬剤処方の効果を検証する研究が行われた。同氏らはニューブランズウィック州の39の地域薬局で、19歳以上のuUTI患者750人を集めた。うち656例は薬剤師が見つけたuUTI例で、94例は医師の処方箋を有していた。この対象に薬剤師が症状の評価、抗菌薬の処方または処方変更(医師の処方箋が不適切な場合)、疾患教育を行った。結果、薬剤師が見つけたuUTI例の臨床的治癒率は88.9%と良好で、患者満足度も非常に高かったという3)。このときの薬剤師の処方は95%がガイドラインと一致したが、医師の処方の一致率は30%に過ぎず、抗菌薬の選択や服用期間のミスが目立ったという。

 こうした薬剤師の広範な業務、すなわち1)薬剤の処方を行い、2)臨床検査をオーダーし、3)慢性疾患のスクリーニングや予防まで踏む込んで疾患を管理し、4)予防接種などの注射も行うことを、Tsuyuki氏は“Full Scope of Pharmacy Practice”と呼ぶ。実はカナダでも、このような薬剤師業務の全面展開は地域によって認められているところといないところがある。同氏は、Full Scopeの薬剤師業務はエビデンスが確立していて、患者の支持を獲得しており、すべての患者に提供されるべきだと訴えている。

1) Santschi V, et al. J Am Heart Assooc 2014; 3: e000718. Santschi V, et al. Can Pharm J 2015; 148(1): 13-16.
2) Tsuyuki RT, et al. Circulation 2015; 132: 93-100.
3) Beahm NP, et al. Can Pharm J 2018; 151: 305-314.

糖尿病に対するRxING、心血管ハイリスク例が対象のRxEACH

 2番目に登壇したY.Al Hamarneh氏は、カナダ・アルバータ大学でのTsuyuki氏の同僚だが、薬剤師による糖尿病の介入試験、RxING研究の結果を報告した。

 この試験は、HbA1cが7.5〜11.0%の血糖管理不良2型糖尿病患者100人を集め、アルバータ州の12の地域薬局で実施された。介入の方法は、薬剤師による処方(経口薬とインスリングラルギン)と用量調節、6カ月間のフォローアップである。ベースライン時のHbA1cは9.1%であったが、14週後には7.6%、26週後には7.3%に低下し、空腹時血糖値も同様の改善を示した(図24)

図2. RxING研究;血糖管理不良糖尿病患者における薬剤師の処方による治療効果

22281_fig1_2.png(Al HamarneYN, et al. BMJ Open 2013; 3: e003154)

 Al Hamarneh氏は、RxING研究について薬剤師が独立して処方した最初の血糖管理の試験であり、薬剤師が血糖管理不良患者を見つけ出し、教育し、より良いアウトカムに導きうることを示したと述べている。

 さらにAl Hamarneh氏やTsuyuki氏のグループは、血圧や糖尿病を含む心血管リスク全般に対する介入研究も行なっている。それがRxEACH研究だ。

 この研究では、56の地域薬局が723人の心血管ハイリスク例をリクルート、対照群と介入群にランダムに分けた。対照群は薬剤師による通常のケアを、介入群は月1回の薬剤師による心血管リスクの評価と教育、薬の処方と検査を受けた。両群の3カ月後の心血管リスクスコアをみると、介入群で21%低下していた5)。収縮期血圧は9.37mmHg、LDL-cは0.2mmol/L、HbA1cは0.92%、喫煙率は20.2%、対照群よりさらに低い値だった(図3)。

図3. RxEACH研究;心血管ハイリスク例における3カ月間の薬剤師薬剤処方を含む介入の影響

22281_fig1_3.png(Tsuyuki RT, et al. J Am Coll Cardiol 2016; 67: 2846-54)

 RxEACH研究も、地域の薬局薬剤師による最初の心血管リスクに対する大規模介入試験である。Al Hamarneh氏はわずか3カ月の介入で心血管リスクが低下した点を評価。地域の薬剤師が、ハイリスク例の発見や処方、検査オーダーまで業務範囲を拡大させることで、公衆衛生に大きな恩恵がもたらされると語った。

4)Al HamarneYN, et al. BMJ Open 2013; 3: e003154
5) Tsuyuki RT, et al. J Am Coll Cardiol 2016; 67: 2846-54.

薬物療法の負の側面にも目を向け、患者負担QOL評価法を開発

 次の発表者、シドニー大学薬学部教授のTimothy F. Chen氏は、薬物療法評価の別の側面、“humanistic outcomes”について講演した。

 これまでの薬物療法は、まず臨床的側面、次いで経済的側面から評価が行われてきた。しかし、人間的側面、すなわちQOLへの影響や患者満足度については十分な検討が行われず、重視されてこなかったのでないかと語る。

 そこで同氏らは、QOLの代表的な評価尺度であるSF36を用いた研究のメタアナリシスを行なった。SF36は、QOLを身体機能(physical functioning)、日常役割機能(身体) (physical role functioning)、体の痛み(bodily pain)、全体的健康感(general health perceptions)、活力(vitality)、社会生活機能(social role functioning)、日常役割機能(精神)(emotional role functioning)、心の健康(mental health)の8領域で調査する質問票だ。メタ解析の結果、薬物療法は社会生活機能、身体機能、全体的健康感、日常役割機能(精神)の4領域で他の療法より優れていたが、日常役割機能(身体)、心の健康、活力、体の痛みの4領域では有意差が出なかった6,7)

 この有意差が出なかったQOLの4領域に特に注目し、同氏らは医薬品による負担が患者QOLにいかなる影響を及ぼすかを検討している。そして、患者の実体験を含む新たなQOL尺度、Medication-related burden QOL toolを開発し、薬物療法の改善に役立てようとしている8,9)。薬剤師は、薬物療法の提供と患者QOLの把握には格好の位置に存在する。Chen氏は、薬物療法のhumanistic outcomesを重視して、その改善を目指そうと呼びかけている。

6) Mohammed MA, et al. Ann Pharmacother. 2016; 50(10): 862-81.
7) Mohammed MA, et al. Int J Clin Pharm. 2018 Feb;40(1):3-14.
8) Mohammed MA, et al. BMJ Open. 2016 Feb 2;6(2):e010035.
9) Mohammed MA, et al. BMJ Open. 2018 Jan 11; 8(1):e018880.

心不全患者を対象としたPHARM-CHF

 ベルリン自由大学臨床薬学部教授のMartin Schulz氏は、心不全にフォーカスして薬剤師による薬物療法について話した。

 心不全にはアルドステロン拮抗薬、ACE阻害薬またはARB、β遮断薬などエビデンスの確立した薬剤が多数ある。にもかかわらず、依然として男性での前立腺がん、女性における乳がん並みに予後の悪い疾患である。その理由の1つは、アドヒアランスの低さだという。実際、同氏らがドイツの26万人の降圧薬処方例を調べた結果、開始1年後まで服薬が続いた例は、どのクラスの降圧薬でも半数以下だった10)

 そして、心不全患者にエビデンスのある薬剤がきちんと処方されているかにも問題がある。同氏らが、健康保険基金のデータから過去1年以内に心不全で入院した患者3,800例を調査した結果、ACE阻害薬またはARBは17%、β遮断薬は18%、アルドステロン拮抗薬に至っては58%の患者が処方されていなかった。すなわち、処方する側、服用する側、双方の問題から心不全の予後不良が生じているのである。

 薬剤師は、こうした状況において何をすべきなのか。Schulz氏は、多職種連携に基づく地域保険薬局薬剤師の継続的介入が、高齢心不全患者のアドヒアランスを改善するかを検討するRCTを企画した。このPHARM-CHF研究では、高齢の慢性心不全患者248人を通常治療を受ける対照群と、薬剤師が薬歴調査や薬物療法カウンセリングを行う介入群に分け、服薬アドヒアランスや全死亡率を比較する。最近完了したパイロットスタディでは、50人の高齢慢性心不全患者において1年間の比較を行い、この試験デザインが実現可能であること、介入群における収縮期血圧の有意な低下がアドヒアランス改善の指標となることを明らかにした(図411)

図4. PHARM-CHF研究/パイロットスタディ;高齢心不全患者50例における対照群と薬剤師積極介入群の収縮期血圧の変化

22281_fig1_4.png(Laufs U, Schulz M, et al. Eur J Heart Fail. 2018; 20(9):1350-1359)

10) Schulz M, et al. Int J Cardiol. 2016; 220:668-76.
11) Laufs U, Schulz M, et al. Eur J Heart Fail. 2018; 20(9):1350-1359.

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