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第16回 離島調査第4弾「二次離島住民に対するかかりつけ薬局定着事業」スタート

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2018年12月03日 08:00

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新たな出発

 平成24(2012)年にスタートした二次離島のお薬説明会・相談会は継続しながら、平成27(2015)年度から、調査研究の第4弾として、新たに「二次離島住民に対するかかりつけ薬局定着事業」を行うことにしました。

 これは、五島市内の薬局に協力していただき、市内すべての薬局の住所や電話番号、緊急時の連絡先を一覧表にしたものを作成。これを二次離島の全世帯に配布して「薬のことで何か聞きたいことがあれば、いつでもすぐに薬剤師に連絡して相談ができる」というものです。これで少しは「聞きたかことのあったときには、あんただおらんじゃん」という声に応えることができればと考えたのでした。

 この事業は、この後たくさんの問い合わせをいただくことになるのですが、その話は、またいつか紹介させていただくことにします。

 そしてもう1つ、大きく変化させたのが説明会のスタイルです。これまでは、パソコンとプロジェクター、それに移動式のスクリーンを持参して、会場に設営をして説明会を行っていました。でも、島の人たちは、壁沿いに陣取って、スクリーンを遠巻きにして座る方が多く、ちょっと気になっていたのです。

 そこで思いついたのが「紙芝居」です。紙芝居だと、住民が座っている場所に、自分から近寄っていけばいいのです。これまでは、黒板の前で講義をしているような感じでしたが、水飴を売りながら街々を回る紙芝居のおじさんスタイルとでも言いましょうか。それと、これだと荷物も少なくなり、誰かに同行を頼まなくても、1人で気軽に回れるという利点もありました。この方式は、少人数しか住んでいない狭い会場では特に有効となりました。

早速訪れた受難

 さて、新しい調査研究を始めますので、改めて倫理審査を受けたりしなければなりません。その書類作成と、審査に要する時間が必要になります。それに何かと物入りになりますので、以前もお願いしたこともある、一般用医薬品セルフメディケーション振興財団から研究助成金をいただくことにしました。この一連の手続きのために、いつもなら新年度が始まると直ちにお薬説明会・相談会の開催に動き出すところが、出だしが大幅に遅れて7月のスタートです。

 今回の手始めは、黄島と黒島にしました。さあ、遅れた分を取り返さないと!と気持ちが焦っているのをあざ笑うかのように、週末ごとに台風がやってきます。おかげで2回も予定を延期して、なんと8月になってしまいました。

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島への道中

1人なのでお泊まり

 そしてもう1つ、今回から取り組んでいくのが、説明重視ではなく、住民のみなさんからの相談重視にしたいということです。今回は、たまたま日程がずれ込んだので、1人で説明会をすることになったため、黄島に前泊することにしました。

 いつもお世話になっている民宿もしている島のお寺に泊めてもらい、夜は一緒に酒を飲みながら、島のみなさんの生活の様子、そしてみなさんの薬に関する悩みなどもゆっくり聞いてみます。島には老人が多く、薬の管理ができていない方もいます。このお寺のご夫婦は、その方たちの薬のセッティングなどもお世話をしているとのことでした。そこで、投薬カレンダーや、薬管理ボックスなどを紹介して、今度、薬局まで見に来てくれることになりました。こんな方たちがいると、島のみなさんも大助かりです。

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黄島の朝

さて、黒島です

 翌日は、黒島です。黒島は相変わらずのお二人だけの生活で、ご自宅での説明会なので、血圧を測定したり、服薬状況などを確認させていただいて、薬の説明などをしていますと、ばあちゃんがところてんを出してくれました。お昼は食べていなかったのでとてもおいしかったのですが、お店がない島での貴重な食糧です。感謝していただきます。

 島に、たった2人しかいない生活ですので心配な部分もたくさんありますが、2人の生活スタイルがあるのでしょう。また来るからねと、港での、いつもの別れです。

seeyousoon.jpgばあちゃん、またね

 ただ、1人での説明会はとても困ることがあります。説明会を行ったという証拠写真が撮れないのです。島の人に撮ってくれとお願いするのもどうかと思いますので、1人の時には写真は諦めましょう。

 さて、次はどの島に行きましょうか。

五島曳船詩・福江島 鎧瀬海岸

鎧瀬には、とてつもなく圧倒的なエネルギーが存在している

 近くに行くだけで、まるで大量のメカブを頭からかぶせられたような強い強い磯の香りが全身を包み込む。鎧瀬あぶんぜ海岸である。玉之浦納の乱の際に、玉之浦納の追っ手から逃れてきた五島家の宇久囲公の馬の鎧が切れたため、ここで船に乗り換え、黒島へ渡ったという言い伝えから鎧瀬海岸と呼ばれていると聞く。

 福江島の南に位置するこの海岸には、ごつごつとした黒い岩肌が続いている。その昔、鬼岳の噴火により大量の溶岩が溢れ出し、海で冷やされて、そのまま固まった。当時の壮絶さは想像もできないものであろう。

abunze1.jpg黒い岩肌が続く鎧瀬海岸

 その複雑な地形に打ち付けられる波の音は激しく、生命とは無縁のようにも思えるが、今では、その岩の切れ目からさまざまな植物が芽を出し、根を張り、たくましく育っている姿が見て取れる。おそらくは、台風などの際には塩を含んだ、とてつもない強い南風に吹き付けられ、激しく打ち付ける波に何度もなぎ倒されてきたのであろうが、それでも大きく、強く根を張り成長しようとしている。

abunze2.jpg岩を伝って根を張る鎧瀬の植物

 自然の力強さには驚嘆させられるばかりである。それに比べて人というもののなんと脆いものか。この地に立ち、強く激しい大いなる自然を体感するがよい。鎧瀬には、とてつもなく圧倒的なエネルギーが存在するから。きっと、エネルギーのお裾分けがあるに違いない。

abunze3.jpg岩の切れ目から伸びる鎧瀬の植物

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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