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自前のエビデンスが医薬分業を変え、臨床業務を拡大する!

日加豪独 国際シンポジウム2

2018年12月04日 13:45

自前のエビデンスが医薬分業を変え、臨床業務を拡大する!

 前編(日加豪独国際シンポジウム1「薬局発のエビデンス、その世界水準とは?」)では、各国の先進的な薬局発エビデンスを紹介した。しかし、薬剤師に許された薬局業務自体、日本と例えばカナダでは大きく異なる。薬剤師が処方や注射までできる国の例を示されても、という指摘は当然出てくるだろう。それに対して、海外の演者は異口同音に「私たちの国でも最初はそうではなかった」と語る。まさに、この点が今回のシンポジウムの核心である。後編では、本シンポジウムを企画した京都大学の岡田浩氏の講演、演者と聴講者のディスカッションの模様を紹介する。

◎この記事のポイント

  • 日本はブルーオーシャン、薬剤師がこれから行うべき研究はいくらもある
  • 薬剤師によるたった3分間のアドバイスで、血糖管理も血圧管理も改善!
  • 患者との近さ、フラットなコミュニケーションが、薬剤師による介入の強み
  • 薬局薬剤師の存在意義は、自分たちで作ったエビデンスで示すしかない!

薬剤師による3分間のアドバイスで血糖も血圧も管理良好に

 40歳で薬剤師になった岡田氏は、薬剤師というのは本当に良い仕事だと語る。薬を渡す、あるいは相談に乗るだけで「ありがとう」と言われる、そんな職業はなかなかない。仲良くなりいろいろ話せる関係になった患者は、慢性疾患のコントロールが改善していくことを経験する。この経験を検証し、薬局での糖尿病患者への療養支援を広めるため同氏が考えた臨床研究が、COMPASSプロジェクトなのである。

 対象は、血糖コントロール不良の2型糖尿病患者。対照群には通常通りの服薬指導をし、介入群では手作りの資料を用いた3分程度の情報提供を行って、歩数計も貸与した。すると、1次アウトカムである6カ月後のHbA1cは対照群では0.3%低下したが、介入群では0.7%低下と、さらに良好な成績が得られた。対照群の低下について岡田氏は、同意書を書くだけで患者のモチベーションは上がると指摘。介入群におけるさらなる低下は、薬剤師とのちょっとした会話が、患者さんの生活の振り返りにつながるためではないかと考察している。

 次いで、同氏は血圧に関しても薬剤師のアドバイスが効果を発揮するのではないかと考え、COMPASS-BPを企画した。この研究は73薬局の125例の高血圧患者を、通常通りの服薬指導をする対照群と、12種の手作りチラシを用い3分程度の情報提供を行う介入群に分けた。血圧計は両群に貸与した。3カ月後の血圧は、秋から冬に向かう季節だったせいもあり、対照群では5mmHg程度上昇したが、介入群では若干の低下を示し、両群間に6mmHgの有意な差がみられた1)図1)。

図1.COMPASS-BP研究;対照群と薬剤師介入群における3カ月後の平均血圧の変化

22281_fig2_1.png(Okada H, et al. Biosci Trends 2017; 11(6): 632-639)

 手作りのチラシとは、例えば梅干し1個に2g、味噌汁1杯には約3gの食塩が含まれており、日々の食事から梅干し1個と味噌汁1杯を減らすと5mmHg前後の血圧低下が期待できるといった、極めて具体的な内容である。同氏はCOMPASS-BPについて、「これは多くの薬剤師が日常的にやっていることを、エビデンスとして見える化しただけだ」という。すなわち、カナダのような処方まで行う強力な介入でなく、月に1、2回の来局時に数分アドバイスをするだけの軽度な介入で、慢性疾患の状態が改善するとの結果が得られたわけだ。日本の薬剤師に勇気を与えるエビデンスと言えよう。

1)Okada H, et al. Biosci Trends 2017; 11(6): 632-639.

なぜ薬剤師の介入が良い成績を生むのか➖鍵はフラットなコミュニケーション

 パネルディスカッションでは、Tsuyuki、Al Hamarneh、Chen、Schulz、岡田の5氏が登壇し、会場からの質問に答えた。

Q1.なぜ、薬剤師による薬物治療が医師による薬物治療より有効なのでしょうか。医師だって、患者とのディスカッションは可能だと思うのですが。

Al Hamarneh:薬局はコミュニティの欠かせない一部で、患者さんともファーストネームで呼び合う関係だったりします。そうしたつながりが、ラポール(共感的・親和的関係)を生み出し、治療にもいい影響を与えるのではないでしょうか。

岡田:患者と薬剤師の間では、フラットなコミュニケーションを作り出せます。上から目線のコミュニケーションは行動変容にはつながらないのです。患者の生活に近いという点は、薬局薬剤師固有のアドバンテージですから、ぜひ活用すべきだと思います。

Chen:オーストラリアの場合、医師に会えるのは年1回といった人も少なくないのですが、薬局には3〜4週間に1度は通っています。つまり、薬剤師は最も身近なプライマリケアの担い手なのです。そのメリットは大きいはずです。

なぜ日本では医薬分業が理解されないか➖かつてはカナダも豪州も同じだった

Q2.今日はうらやましい思いで講演を聞きました。日本では医薬分業の理念が未熟で、医師も患者もその理解が不十分なのです。そのため、カナダやオーストラリアのような薬剤師による薬物療法は当分できそうにありません。

Tsuyuki:もし先生が10年前にカナダにおられたら、私たちは同じ会話を交わしたでしょう。先ほどの「Full Scope of Pharmacy Practice薬剤師による臨床業務」は、与えられたものでなく勝ち取ったものです(図2)。それも全てを勝ち取ったわけでなく、今も闘っている途中なのです(図3)。日本の方も、今、失望する必要はないと思います。

Schulz:ドイツでも今、薬剤師によるワクチン接種について同様の議論が交わされています。政治的動機、経済的利害に基づく意見も多いのですが、やはり患者にとってベストなケアが提供できる医療システムを考えるべきでしょう。他の専門職の仕事を奪うつもりはありませんが、薬剤師が調剤して相談を受けるだけというのはあまりにもったいない。21世紀のヘルスケアとしては不十分だと思います。

Chen:オーストラリアでも、全員が薬剤師の役割について納得しているわけではありません。薬物療法は誰が管理するのか、医師のグループと議論したこともあります。しかし、その問い自体が間違いでした。患者の視点が欠けていたのです。シドニー大学では、薬剤師が医師、看護師、理学療法士などとグループを作り、臨床課題を解決する教育を行っています。こうした集学的・統合的ケアが普通になれば、「誰が薬物療法を行うのか」といった議論は、無意味なものになると思います。

図2. 薬剤師による臨床業務 A Full Scope of Pharmacy Practice

22281_fig2_2.png(Tsuyuki RT,et al: Can Pharm J 2018: 151;286-287)

図3. 薬剤師による臨床業務の現状と課題

22281_fig2_3.png

各国での医師と薬剤師の関係?➖壁? ヒエラルキ➖? 協働? チーム?

Q3.薬剤師の大きな可能性を抑え込んでいるのは、古い体制や文化です。ただし、岡田先生のCOMPASS研究は、医学部の教授から高い評価を受けました。医学部ですら少しずつ変わっています。勇気を持ちましょう。マイノリティが世界を変えるのです。

Tsuyuki:実は、私たちの臨床研究は全て、医学部で行われたものなんですよ。

岡田:日本の薬剤師は、ネガティブなことに目がいきがちで、自分たちを特殊だと思いたがります。しかし、カナダでも医師に気を使って、物が言えない薬剤師は少なくありません。ただ、日本でもカナダでも、患者のために何ができるかという点では同じ地平で議論できるはずです。この点に気づいたのは、カナダに行った大きな収穫でした。

Chen:初めて、薬局薬剤師と開業医が同じテーブルを囲んでケースカンファレンスをするようになったとき、薬剤師はとても怖がっていました。やはり、そこにはヒエラルキーがあるし、自分の理解不足をとがめられるかもしれないから。けれど、後で聞くと、実は開業医も、薬剤師に処方の不備を指摘されたらどうしようと不安だったそうです。互いに揚げ足を取るのではなく、協働して患者を支援するという発想に切り替えれば、医療はもっともっと良くなると思います。

岡田:カナダでは、薬剤師に対するリスペクトを強く感じました。RxActionなどのエビデンスについて、何でこんなにいい成績なのかとよく聞かれます。ナースプラクティショナーが行なった臨床研究もあるのですが、薬剤師の研究ほど良い成績ではありません。そこにはいろいろな理由がありますが、ロスに言わせればこうなります。「ガイドラインに沿ってきっちり薬を増減できるのは薬剤師しかいない。決められたことを守るのは、誰よりも薬剤師だ。それに内科医はガイドラインをあまり読まない(笑)」。

薬局薬剤師の存在意義を示すため➖エビデンスがなければ世の中は変わらない!

Q4.カナダやオーストラリアの薬剤師はリスペクトされているようですが、それはむしろ珍しいかもしれません。英国の薬局薬剤師は、リピート調剤のときに説明を拒絶されることに強いストレスを感じていました。どうすれば薬剤師は評価されるのでしょう。

Chen:その人はロボットのように、どの患者にも同じことを言っているのではないでしょうか。それでは評価は得られません。個別の患者に即した有用な情報を提供できれば、自然と評価されるはずです。

Q5.日本では今、薬局が袋叩きにあっています。これからどうなると思われますか。

Tsuyuki:その問題は日本だけの問題ではありません。私たちも100%勝ったわけではないのです。一番大切なのはやってみること、トライし続けることだと思います。

岡田:今日いろいろ紹介された薬局発のエビデンスは、2000年代のものがほとんどだったはずです。つまり10〜20年前、欧米では薬局の役割が問われ、エビデンスをでもって存在意義を証明することを迫られたのです。日本には今、1周遅れでその波が来ています。ぜひみなさん、一緒に臨床研究をしましょう。そして、薬剤師がよりより薬物治療を提供する上で欠かせない存在であることをエビデンスで示していきましょう!

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