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事故予防は医療者間のコミュニケーションで

2018年12月14日 15:00

 医師-薬剤師間の良好なコミュニケーションが達成できなかった場合に最も大きな被害を受けるのは患者である。東京女子医科大学精神医学講座講師の稲田健氏は、第28回日本臨床精神神経薬理学会/第48回日本神経精神薬理学会(11月14〜16日)のシンポジウム「精神科医と薬剤師のクロストーク」で、「医療における安全性の確保にこだわりたい」と述べた。その上で、医療・医薬品の安全には医療者間のコミュニケーションが不可欠であり、どのような情報をいかに提供していくかを模索する必要があると主張した。

◎この記事のポイント

  • 医療の質を担保するのに最も重要なのは安全性
  • 治療を行う合理的な理由があるか?
  • 患者(家族)に対し十分な説明がされているか?
  • 十分な観察がされているか?
  • 診療録への記載はあるか?
  • 医療安全の鍵は医師-薬剤師間のコミュニケーション

医療の質、最も重要なのは安全性

 患者の救命を図る上で他に有効な手段がないなど、医学的に合理的な理由が存在すれば、医師の裁量に基づいて禁忌薬を投与するケースがある。禁忌薬使用においては下記の4原則が必須とされている。

  • 1.治療を行う合理的な理由がある
  • 2.患者(家族)に対し十分な説明がされている
  • 3.十分な観察がされている
  • 4.診療録への記載

 「これらはそのまま、治療を行う場合の4原則に置き換えられないか」。稲田氏は、これらの原則を日常診療に当てはめて説明した。

1.治療を行う合理的な理由があるか?

 まずは、治療を行うべき症状、問題があるかを考えなければならない。症状がないのに薬が出ていることはないだろうか?薬の効果が分からないから、試しに処方してみたといったケースはないだろうか?治療を決定する過程では、当然ベネフィットがリスクに勝ることを確認するが、一方で、治療を行わなかった場合のリスクも併せて考慮すべきである。例えば、統合失調症患者が服薬を拒む場合。服薬しなければ症状が悪化することを想定した治療、指導が望まれる。

2.患者(家族)に対し十分な説明がされているか?

―「どの程度」より「どのように」説明したか

 「どの程度の説明を行えば十分だといえるのか?」この問いに対する答えはない。医療者が適切に伝えたと考えていても、患者がそう感じていなければ十分とはいえない。では、どのように説明すべきか。

 多職種による説明が効果的だ。医師も情報提供を行うが、十分な時間を取れるとは限らない。「医師の話では分からなかった」という患者もいるだろう。薬物治療であれば、薬剤師による説明が求められる。特に、副作用に関する情報は患者のニーズが高く、薬剤師による的確な情報提供は歓迎されるだろう。とりわけ、大きな副作用につながる自覚症状は、アドヒアランス状況にかかわらず、薬剤師から患者に必ず伝えることが望ましい。

―情報提供はコミュニケーションのきっかけに

 東京女子医大病院精神科では、ベンゾジアゼピン系薬に関する患者啓発用に「睡眠薬・抗不安薬を内服中の方へ」という冊子を作成、配布している(図1)。

図1. ベンゾジアゼピン系薬の副作用を伝える試み

22439_fig1.png

(稲田健氏提供資料を基に作成)

 稲田氏によると、冊子の配布方法がポイント。手渡しする際に「困ったら相談してください。専門科も紹介します」と伝えることで、患者とのコミュニケーションが深まるという。

―自動車運転の注意はどう伝えるか?

 医師、薬剤師は、添付文書の使用上の注意に自動車運転などの禁止などの記載がある医薬品を処方または調剤する際は、患者に対し必要な注意喚起を徹底することが求められている(2013年5月29日 薬食総発0529第2号、薬食安発0529第2号)。また、道路交通法第66条には「薬物の影響により正常な運転ができない状態での運転は禁止」と明記されている。対象となる患者には適切な情報提供を行い、「運転禁止について説明した」と、なんらかの形で記録することが、大方の病院で行われている対応であろう。

 東京女子医大病院においては、より丁寧に説明文書を用いた情報提供を行うルールとなっているが、なかなかその活用を目にすることはないという。「いかにして、運転禁止に関する説明を行い、記録するか」は、頭を悩ます問題である。「何かよい対策があれば教えていただきたい」と稲田氏は付け加えた。

3.十分な観察がされているか?

―安全性担保には薬剤師の処方監査や疑義照会が重要

 観察に関しては、薬剤師に任される業務が少なくない。

①処方監査。禁忌薬が処方されていないか。適応外処方はないかを確認する。

②疑義照会。問題となる処方に対して疑義照会が行われているだろうか?疑わしい処方に関する疑義照会は、医療の安全性を担保する上で極めて重要であると、稲田氏は強調した。

 さらに、③残薬から服薬状況を確認、④副作用のモニタリング、⑤血中濃度のモニタリングなどへの関与も薬剤師には求められている。

 医療事故は「スイスチーズ」に例えられるように、幾つものミスが重なって起こる(図2)。それらに対する多重防護壁となるのは十分な観察だ。医師と薬剤師がともにしっかりと取り組んでいきたいと同氏は述べる。

図2. 医師・薬剤師における医療安全のスイスチーズモデル

22439_fig2.png

(稲田健氏提供資料を元に作成)

ー診療報酬改定も薬剤師による観察を後押し

 2018年の診療報酬改定では、「向精神薬調製連携加算」が加算項目に加わった。向精神薬の多剤処方を減薬によって適正化し、その上で薬剤師や看護職員に症状の変化などの確認を指示した場合に算定するものだ。向精神薬の減薬が望ましいとされる中で、規模の大小にかかわらず、多職種連携を通じた取り組みはより評価したいという、国の意向が読み取れる。「医療者側は、医療の質向上に対する意欲を示すためにも、こうした加算は積極的に取っていきたいものだ」と稲田氏は言う。

―観察のフィードバックはカンファレンスで

 患者の情報共有は多職種が一堂に会すカンファレンスのような場で行うのが効果的だ。

 東京女子医大病院では、病棟カンファレンスに薬剤師が参加し、ベンゾジアゼピン系薬を処方されている患者の処方状況を挙げて、担当医から今後の方針を聴き取る。

 薬剤師「20mg以上出ている患者さんは○○さんです。これからどうしますか?」

 医師「来週から減量予定です」

 薬剤師「△△さんはどうしますか?」

 医師「しばらくは今のままで続けます」

 ――ただ、これだけの掛け合いであるが、効果は高いという。

 このカンファレンスによる情報共有の効果を調べてみた。病棟をフロアA、Bの2つに分けて検討を行ったところ、2014年から医師―薬剤師間で処方薬の情報共有を開始したフロアAでは、ベンゾジアゼピン系薬の処方量が低下した。そこでフロアBでも2015年から同様の試みを行った。以前は処方量に変化がなかったが、取り組みの開始後はやはりベンゾジアゼピン系薬の処方量が低下した。

 医師に提言するならカンファレンスの場がよいと、稲田氏は述べる。「バルプロ酸の出ている患者さん、血中濃度がしばらく報告されていませんが測っていますか?」といった医師への質問も、カンファレンスで言えば角が立たない。薬の安全性や効果を高めるだけでなく、医師と薬剤師の不要なコンフリクトを防ぐ上でも、有用な手段であるという。

4.診療録への記載はあるか?

 医師は診療の記録、薬剤師は薬剤管理指導記録を行うことが必須の業務とされている。治療中は、何を行ったかを確認するため、治療後は医療安全の貢献を査定するために必要な記録となる。

 記録された情報を医師、薬剤師間で共有にする手段として、処方箋やおくすり手帳への転記といったアイデアが挙げられる。東京女子医大病院では、電子カルテからの薬剤管理指導記録の閲覧が可能だが、稲田氏が同僚の医師に確認したところ、見たと回答した者はいなかった。今後は、どのような情報をいかに伝えたらよいかを考えていく必要があるという。

医療安全の鍵は医師-薬剤師間のコミュニケーション

 結局のところ、医療安全を保証する鍵は「医師-薬剤師間でどのようにコミュニケーションを取るか」であろうと稲田氏は述べる。病院の中では情報共有の機会をつくりやすいが、院外との対応はいかに行うか、双方でどのような情報が望まれているかは、今後考えていくべき課題だ。

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