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腎機能低下患者の有害事象回避において 薬局薬剤師の役割は大きい

第37回日本社会薬学会 これからを担う若手薬剤師からの発信

2018年12月20日 08:15

腎機能低下患者の有害事象回避において 薬局薬剤師の役割は大きい

 熊本大学大学院生命科学研究部・薬学部 薬剤情報分析学分野 近藤悠希氏

 現在の日本において、慢性腎臓病(CKD)患者は1,330万人以上に上り、今後もさらなる増加が見込まれている。一方、CKD患者は医薬品による有害事象のハイリスク群であり、薬学的な問題・課題を抱えている。その約7割は保険薬局で薬を受け取っているため、薬局薬剤師による腎機能低下患者への適正な介入が重要となる。電子薬歴やレセプトコンピュータに搭載可能な腎排泄型薬剤処方監査支援システムを開発した熊本大学大学院の近藤悠希氏は、第37回日本社会薬学会に登壇。自身の薬局薬剤師としての勤務経験を基に開発したこのシステムを紹介したほか、併用薬によって薬剤性腎障害リスクが高まるシグナルをビッグデータを用いて検出した研究について発表した。

この記事のポイント

  • 腎排泄型薬剤の7割が保険薬局で調剤されているため、保険薬局における対策が求められる
  • 近藤氏は腎排泄型薬剤の過量投与を回避するために、レセプトコンピューターに搭載可能な腎排泄型薬剤監査システムを開発
  • 同時に、適正用量でも起こる薬剤性腎障害を防ぐための情報も重要である

腎排泄型薬剤の約7割は保険薬局で調剤されている

 腎機能低下患者は、医薬品における有害事象のハイリスク群であるが、腎排泄型薬剤の過量投与による有害事象は、薬剤師などによる適切な管理によって回避が可能である。

 平成27年度レセプト情報・特定健診等データベース(NDBオープンデータ)から、75歳以上における特に注意すべき代表的腎排泄型薬剤の処方の内訳を比較したところ、約7割が院外処方されていた(図1)。すなわち、腎機能低下患者に対する腎排泄型薬剤の処方は主に保険薬局を通して渡されているため、保険薬局における対策が極めて重要となる。

図1. 腎機能低下患者における腎排泄型薬剤の使用状況

22520_tab1.png(近藤悠希. 薬局薬学, 2018; 10: 41-45.を基に作成)

「薬を飲んだら変なことを言い出し、幻覚を見るように」

 近藤氏は、自身が薬局薬剤師として経験した有害事象症例を振り返った。在宅訪問をしている施設から、薬が原因で精神症状を来している入居者がいると連絡があった。

 「認知症や精神疾患ではないのに、薬を飲んだら変なことを言い出し、幻覚を見るようになったのです。薬でこのようになることはあるのでしょうか」。

 入居者はもともと腎機能が低下していた。帯状疱疹が出たため皮膚科を受診し、門前薬局でバラシクロビルを受け取った。服薬からまもなく、上の症状が現れ、急性薬剤性腎障害およびアシクロビル脳症で入院することになった。

 2016年のバラシクロビルによる薬剤性腎障害の報告は、175件※1。未報告の事例も想定すると、同様の事例は少なくないことが伺える。さらに、このうちの約半数では高齢者に対して常用量が処方されていた。

 それでは、過量投与や薬剤性腎障害を繰り返さないために、薬剤師ができることとは何か。この課題を考える上で薬物療法に関する3つの疑問が浮上した。

  • 1.薬局薬剤師は腎機能を考慮した処方監査をしっかりと行っているのか?
  • 2.腎排泄型薬剤の過量投与を回避するために何か工夫が必要ではないか?
  • 3.適正用量でも起こる薬剤性腎障害を防ぐための情報が必要ではないか?

※1 医薬品副作用データベース(Japanese Adverse Drug Event Report database ; JADER)より。

JADER: PMDA(日本)が医薬品製造販売業や医療機関からの有害事象報告を収集し、公開。現在約40万症例が登録されている。患者背景情報として体重、性別、年齢、原疾患を、また医薬品名や投与経路、投与量、有害事象名、発現日、転帰などを確認できる。米国では同様のシステムとしてFAERS(FDA Adverse Event Reporting System)があり、約800万症例が登録されている。

1.薬局薬剤師は腎機能を考慮した処方監査をしっかりと行っているのか?

 近藤氏は、全国の薬局薬剤師および病院薬剤師を対象にインターネットによるアンケートを行った。すると、腎排泄型薬剤に関する疑義照会をしたことがあると答えたのは、病院薬剤師の約9割であったが、薬局薬剤師では約半数に過ぎなかった(図2)。疑義照会を行う上での問題点としては、薬局薬剤師の約9割が、血清クレアチニン値などの検査値の入手が困難であることを挙げている(図3)。同氏は、「薬局薬剤師が検査値情報を活用できる環境の整備が重要であることが示された」と指摘する。

図2. 保険薬局における腎排泄型薬剤に関する疑義照会の現状

22520_fig1.png(Kondo Y, et al. BMC Health Serv Res 2014; 14: 615.を基に作成)

図3. 腎排泄型薬剤の投与量に関する疑義照会をするうえでの問題点(インターネット調査)

22520_fig2.png(Kondo Y, et al. BMC Health Serv Res 2014; 14: 615.を基に作成)

2.腎排泄型薬剤の過量投与を回避するために何か工夫が必要ではないか?

 他に過量投与の回避を難しくしている原因はないか。そこでは、次のような後輩の言葉がヒントになった。

「腎機能に注意が必要な薬剤が多すぎて覚えられない」「どの薬か分かっても、どれくらい減量すればよいのか、毎回調べるのは大変だ」。

 これまでに近藤氏は、薬局で採用している電子薬歴に、腎排泄型薬剤が処方されたらアラートが表示されるシステムを設計、導入した。さらにアラートが出た薬剤に対し、必要な情報を入力すると、腎機能の推算結果より適切な用量が表示されるようにした。

 その結果、腎機能に応じた処方監査や疑義照会の実施率が増加した(図4)。薬剤費の削減効果もあり、処方箋1枚当たり約70円を減らすことができた。こうした取り組みを全国的に行えば、図4にある6種類の薬剤での取り組みだけでも1年当たり約4億円の薬剤費削減が可能になると同氏は試算した。

図4 腎排泄型薬剤監査支援システム使用による処方監査、疑義照会実施率の変化

22520_fig3.png
(近藤悠希、藤盛恵理ら. 日本社会薬学会第35年会発表を基に作成)

 次に同氏は、レセプトコンピュータに注目した。電子薬歴の普及率が全国で10~40%とされている一方、レセプトコンピュータの普及率は98%以上ともいわれるからだ。

 先のシステムをレセプトコンピュータ対応が可能になるようにした腎排泄型薬剤監査支援システムは、compReteの名称で既に上市され、100箇所以上の保険薬局で実際に使用されている。現在、福井県では、平成30年の厚労省「患者のための薬局医療推進事業」において、compReteの利用が採択され、薬剤師の介入における同システムの有用性を検討している。

3.適正用量でも起こる薬剤性腎障害を防ぐための情報が必要ではないか?

 腎機能に影響を与えないように用量を調節してもなお、腎障害を来す患者がいる。

 こうした有害事象を防止するためには、どのような状況、どのような患者で有害事象が起こりやすいかを推測することが重要である。JADER、レセプト情報・特定健診等情報データなどのビッグデータを活用すれば、薬剤性腎障害のリスクをスクリーニングできる可能性がある。近藤氏は現在、薬剤性腎障害の発症に対して併用薬が与える影響や、患者背景とリスクとの関係をこの方法で解析している(論文投稿中)。

 腎排泄型薬剤の適正使用に薬局が取り組めば、患者や医療従事者のみならず、すべてのステークホルダーにメリットがある(図5)。とりわけ薬剤師にとっては、腎機能を考慮した適正使用への取り組みは、安全な医療の提供により患者に貢献できるだけでなく、薬学以外の分野の方に薬局薬剤師の業務やその必要性をアピールするチャンスだと近藤氏は強調した。

図5 腎排泄型薬剤適正使用への取り組みで他職種に薬剤師の必要性を伝える
22520_fig4.png(近藤悠希氏提供)
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