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クラウドで薬歴を管理し、電話で処方箋を飛ばす

患者の利便性を一番に考えたカナダの処方箋システム

2019年01月23日 08:00

カナダで働く薬剤師 青山慎平

葉っぱのアイコン (1).pngカナダ西端のブリティッシュコロンビアから東端のケベックへ

map_canada2.png

 「ボンジュール, &%#(##.2(‘&#$ ……????

 ある日、ケベック州にある薬局に電話をかけました。ところが、電話の向こうから聞こえた言葉がさっぱりわかりません。ケベック州はフランス語を話す人の多い点ではカナダ随一です。私自身はカナダで薬剤師業務を開始して半年。薬剤師業務には慣れてきましたが、フランス語についてはまだまだ初心者なのでした。

 ところで、なぜ私はブリティッシュ・コロンビア州からはるか彼方のケベック州に電話をかけたのでしょうか。カナダでは、薬局のコンピュータに保存されている処方箋情報を、電話1本で別の薬局に移動させることが可能です。場合によっては、州をまたいでも、処方箋のトランスファー(移動)を行うことができるのです。

 今回は、「処方箋トランスファー」を含む、カナダの処方箋システムについてお話したいと思います。

ケベック景色.jpgケベック州のモントリオールは北米のパリと呼ばれ、ヨーロッパのような美しい町並みが楽しめる。フランス語が公用語であるために、英語が通じないこともある。

葉っぱのアイコン (1).png依頼の増える処方箋トランスファー

 「Can I get a prescription transfer please?」

 年末年始になると、このように近隣の薬局から電話がかかってきます。

 「prescription transfer」とは、処方箋トランスファー。すなわち処方箋データの移動のことです。12月は、Deductibleがリセットされる前に薬をもらおうとしたり、長期休暇のためにまとめて薬をもらう人がいます。その結果、処方箋トランスファーも増えているように感じます。こうした、季節的な理由のほか、前回の記事で書いた「山火事からの避難」などにより、処方箋トランスファーが必要になる場合もあります。

※Deductible:カナダの医療保険における自己負担額の1つ。基本的な自己負担額としてCopayがあるが、その対象外となる治療費に関しては、Deductibleの対象となる。設けられた上限までは患者が費用を負担し、それを超えると保険会社からの支払いが行われる。

クリスマスカナダ01.jpgカナダは12月に入ると町はクリスマスムード一色になります。カナダの年末年始の連休は、日本のように長期ではなく、クリスマスやNew Years Dayを除き、通常通りです。その代わり、2週間や4週間といった長期バケーションを毎年どこかで取ることができます。

 

葉っぱのアイコン (1).pngカナダの薬局の処方箋システム

処方箋トランスファーについて話をするのであれば、薬局の処方箋システムについて知っておく必要があります。ここでは3つに分類して紹介します。

  • 1)調剤する、もしくは調剤せずにデータ保存する方法 ―Fill (調剤する) or Unfill (調剤しない)=save on file (データ保存)
  • 2)リフィルシステム ―Refill system
  • 3)トランスファーシステム ―Transfer system

1)調剤する、もしくは調剤せずにデータ保存する方法
 ―Fill
(調剤する) or Unfill (調剤しない)=save on file (データ保存)

 患者は、医師が書いた処方箋の中から、「希望する薬剤を、希望する日数、希望するタイミング」で受け取ることができます。記載通りの処方を受け取ることができますが、一部の薬だけをもらうことも可能です。

 受け取らなかった薬については、処方箋を出した薬局のコンピュータに最長1年間、データが保存されます。そして、また必要になった時に薬局に電話をかければ調剤してもらうことができるのです。

2)リフィルシステム
 -Refill system

 Refill(リフィル)システムとは、Re (再度)+Fill (調剤) という名前の通り、前回と同じ薬をそのまま調剤できるシステムです。あくまで処方箋原本の継続という考え方のため、原本の期限が切れてしまった場合や、新しい処方箋を受け取った場合などはリフィルもキャンセルされます。

 医師は、処方箋にリフィルの可否を記入します。リフィルが許可された場合、薬局ではそれらのデータをコンピュータに保存しておきます。

リフィル処方箋の例

リフィル01カナダ.png処方箋の一番下部に記載してある、Repeatの部分がリフィルの有無である。この処方箋では、Repeat 3 times at 30 day intervalsとあるので、患者は3回分リフィルを受け取ることができる。(ただし30日間あける必要がある。)まだまだ手書き処方箋が多く出回っているため、解読が大変な場合もある。分からなくて、医師に確認することも度々。この処方箋は比較的はっきり書いてあり、読みやすい方である。
記載内容は、④Atrovent inhale 2 puffs qid、⑤Ventolin inhale 2 puffs qid、⑥ Aerochamber。

3)トランスファーシステム
 -Transfer system

 処方箋トランスファーとは、処方箋データの薬局間の移動をいいます。1)や2)のシステムで保存された処方箋情報を、別の薬局に移動させることができます。基本的にはどの薬でも可能ですが、麻薬など一部不可能な薬もあります。

葉っぱのアイコン (1).png処方箋トランスファーはどうやって行うか?

処方箋トランスファーの手順は下記になります。

  • 1) 患者が受け取りたい薬局(トランスファー先薬局)で、トランスファー依頼をする。
  • 2)その薬局(トランスファー先薬局)のスタッフが、処方箋データのある薬局(トランスファー元薬局)に電話をし、トランスファーしたい患者の情報や薬剤を伝える。
  • 3)トランスファー元薬局から、トランスファー先薬局へ「トランスファー詳細情報用紙」をFAXする。
  • 4)トランスファー先薬局では、処方箋を受け取った場合と同様に、そのFAXの内容をローカルデータに入力して調剤する
トランスファー書式.png

多くの薬局で導入されているコンピュータシステムKroll systemの一画面。このページでは患者のプロフィールが示されている。システム中に保存された薬剤を選択し、Transferボタンを押すだけで、簡単に「トランスファー詳細情報用紙」がプリントアウトされる。

葉っぱのアイコン (1).pngカナダの処方箋システムのメリット・デメリット

メリット

1)患者の利便性が高い
トランスファーを使えば、勤務先や旅行先、買い物のついでなど、どこの薬局でも薬をもらうことができる。

2)患者個人による残薬の調整がしやすく、残薬が発生しにくい
好きなタイミングで好きな量を好きな場所でもらえば良いので、残薬が発生しにくい。

3)患者の権利が守られる(自己決定権がある) = 個人の責任が問われる
どの薬をもらうか、最終的な意志決定権が患者にあるため、患者自身が納得する治療を受けられる。

デメリット

1)調剤過誤や情報不一致のリスク
情報伝達のルートが複雑化するため、コミュニケーションミスや処方箋内容入力ミスなどによる調剤過誤や情報不一致の問題が起こりやすくなる。

2)薬物相互作用や重複投与の見落としのリスク
複数の薬局でデータを管理し、複数の薬剤師によって調剤されることで、薬物相互作用や重複投与の見落としのリスクが高まる。同じ州内であれば、クラウドシステムを介して薬歴を確認することができるが、本来は1人でも行える作業を何回かに分けて複数人で行えば、ミスが生まれる可能性が高まる。

3)トランスファー業務による仕事量の増加
処方箋トランスファーの度に電話やデータ入力の業務が追加されるため、薬局スタッフの業務量は増える。

4)処方箋が意図し通りに服用されない可能性がある
患者に服薬の最終決定権があるので、医師が治療計画に基づいて処方しても、実際には薬が飲まれていないことが多々ある。それを医師が確認するためには、薬局に電話して薬歴クラウドシステムにアクセスしてもらう必要がある。しかし、そこまで患者のアドヒアランスをフォローする医師は稀である。

葉っぱのアイコン (1).png薬局は薬物療法を最終決定する場所

 カナダの処方箋システムにおいて、患者はどの薬を飲むかを薬局で最終的に決めることになります。

 このシステムのデメリットについて、「処方箋が意図した通りに服用されない」と書きましたが、これは「医師の意図通りに飲まない」可能性があるということです。つまり、インフォームドコンセントが患者から取れていなければ、「結局、患者は飲まない」という結果につながりかねないのです。

 実際に、処方箋に書かれた薬が何であるのか分からず、なぜ飲んでいるのかを知らない患者は少なくありません。薬の効果がよく分からないからという理由で、感染症治療に必要な抗菌薬さえ飲まない人がいるのです。

 しかし、だからこそ、薬局には薬剤師がいます。薬局の薬剤師が、患者にとってベストな薬物治療を選択する手助けをすればよいのです。薬剤師の行為は非常に価値があるのです。

葉っぱのアイコン (1).png薬局スタッフを困らせる処方箋トランスファー、しかし需要は高く継続すべき

 処方箋トランスファーはカナダ全域で可能です。冒頭に書いたように、例えばケベックからの旅行者の処方箋トランスファーをする必要も出てきます。そういった場合、ケベックの薬局に電話をするのですが、現地のスタッフがフランス語しか話せない場合があります。こちらにフランス語が話せるスタッフがいなければ、フランス語が話せる人が来るまで待つこともあります。

 処方箋トランスファーを相手の薬局に送った矢先に、在庫がないからと、すぐにトランスファーバックされることもあります。

 処方箋トランスファーは、万能なシステムというわけではありません。しかし、利便性は高く、患者からのニーズは非常に高いと感じています。私自身も、もし日本にこのトランスファーのシステムがあれば、ぜひ移動して、あっちやこっちの薬局で薬をもらいたいと思います。薬局側からすると、非常に迷惑な話なのですが……。

 最近は、フレイザーレイクで大規模発生した火事が原因で、避難先の薬局に送った処方箋が、少しずつトランスファーバックされてきました(関連記事)。それらは大変な業務でしたが、火事が無事におさまり、住民が町に戻ってきたことの証拠でもあると嬉しく思っています。

◎ブログに関連記事をアップしました

誰も先発品を選ばなくなる LCA プログラム 〜アレンドロン酸の事例を介して〜

カナダLCAプログラム_青山氏ブログアイキャッチ.jpg

◎youtubeで「薬局で使える英語」を紹介しています

今月のオススメ
>アモキシシリンを英語で服薬指導! 絶対に説明したい7つの項目

【コラムコンセプト】

薬剤師を取り巻く環境は日本と海外で違う。しかし、やっていることは本質的には同じ。患者のために薬を調剤し、鑑査し、投薬 (服薬指導) する。そして、その薬物療法を評価し、医師や他の医療従事者とより良い治療方法を再考していくこと。カナダの薬剤師事情を紹介しながら、日本での業務に取り入れられる方法を考えるコラム。

【プロフィール】プロフィール写真.jpg

1986年生まれ。名城大学薬学部卒。日本の病院薬剤師、調剤薬局、ドラッグストアで勤務した後、カナダへ留学。スプラットショーカレッジの薬剤師アシスタントプログラムを介し、Loblow pharmacyでインターン研修。2015年ブリティッシュコロンビア大学(UBC) CP3コース終了後、2016年カナダ薬剤師免許の取得。

blog: SHAWN'S WORLD
Twitter:@shinshinskysky

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