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第18回 「お薬手帳の使い方を教えてください」

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2019年02月08日 16:00

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エアコンを求めて椛島へ

 平成27(2015)年のお薬説明会は、調査研究の申請と台風の接近で、2度目の開催が8月になってしまいました。

「井上くん、8月のお盆前って暑いから、クーラーがある所が良いよね〜」「そうですね。平山先生、椛島でしたら2カ所ともエアコンあったと思いますよ」

ということで、決まりです。お盆前の8月9日、椛島へお薬説明会に行くことにしました。

 椛島は、本窯地区と伊福貴地区という比較的大きな集落に分かれているために、いつも午前と午後に分けて行うのです。この島には診療所があり定期的に診療が行われています。その真ん中付近に学校もあり、当時は私が学校薬剤師をさせていただいていました。ただし、子供は1人だけでしたので、現在は休校になっています。当時この島では国内でも注目を浴びている海上風力発電の実験事業や、電気を水素にする実験などが行われていて、それらの施設やら、それを管理する人たちがたくさんで、とても活気がありました。海上タクシーで福江の漁港を出発した私たちは、それらの施設を横目で見ながら島へと向かいます。

ぎこちない紙芝居

 まずは本窯です。ここの会場は住民が自分たちのお金で建てた施設で、宿泊もできるようになっています。そしてなによりエアコンがあって快適です。しばらくすると、いつものみなさんが少しずつ集まってくださいます。ここも3回目ですので、だいたいが顔見知りです。ただ、今回から紙芝居形式なので、いつもならスクリーンを設置したり、パソコンやプロジェクターを準備したりと大掛かりなのに、実験道具だけを並べているわたしたちに、みなさん不思議そうです。

 ある程度集まったところで説明会スタート。しかし紙芝居形式での説明に慣れていないせいか、なんとなくぎこちないのが自分でも分かります。つられて住民のみなさんも戸惑っている感じがひしひしと。でもそこはなんとなく実験で巻き返しましょう。今回は、マグミットをお湯に溶かして、その中にマドパーを入れて色の変化を見せる実験と、イソジンガーグルを水に薄めた液体にビタミンCの入ったジュースを数滴落とすと液体が透明になるという実験です。みなさんの反応もよく、紙芝居のぎこちなさはごまかせたでしょうか。

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本窯でのお薬説明会

 なんとなく無事に終えた私たちは、みなさんの好意で、涼しい会場で弁当を食べて島の散策へと向かいます。井上くんは趣味の釣りに。私はカメラを抱えて、そこいら中を歩き回ります。堤防から海を眺めていると、大量のミズイカの赤ちゃんが泳いでいます。釣竿よりも網のほうが良さそうです。

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ミズイカの子供たち

「お薬手帳、どうやって書いたらいいですか?」

 お昼からは伊福貴地区です。客引きも兼ねて、いつものお宅へ薬の確認がてら挨拶へ。飲んでいる薬を見せてもらって、それぞれの薬の説明をしながら注意点を話します。島には診療所はありますが薬剤師がいないので喜んでもらえます。

 そして会場へ向かっていると、住民の方から「今日が説明会だった?」と。「は〜い、待ってますね〜」少しは浸透してきているのでしょうか。

 ところが、会場に着くとたいへんな事態が待っていました。「すみません。住民センターのエアコンが壊れているんですが、どうしますか?」まさかエアコン目的で来たとも言えず困惑していますと「ちょっと狭いですけど和室の方だったらエアコンありますけど、それでもいいですか?」バッチリです。

 紙芝居は狭い会場でもOKです。この日2回目ということと、朝の会場よりも住民との距離が近くなったのがよかったのか、とても楽しく話ができました。なるほど、紙芝居は距離が近い方が良いようです。

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伊福貴でのお薬説明会

 そして帰り際、うちに来て薬を見てもらえないかと声を掛けていただきました。お宅で薬を拝見して、整理をしながら説明をさせていただきます。

 お薬手帳を出されてこうおっしゃいました。「診療所では、お薬手帳に書いてくれないの。どうしたらいいですか?それに、健康食品なんかも書いてた方がいいんですよね?どうやって書いたらいいですか?」毎回、お薬手帳を配布して、利用の方法を説明してきた成果の1つです。飲んでいる薬の内容や、健康食品の名前なんかも書かせていただき、こうお伝えしました。「お薬手帳には、自分でいろんなことを書いていいですからね。お薬手帳は、あなたの手帳なんですから」

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お薬手帳の使い方・書き方を指導

 お盆前の暑い1日でしたけど、とても気持ちの良い日でした。さて、次はどの島へ行きましょうか。

五島曳船詩・黒島

何も聞こえない日常がそこにはある

 黒島は住民がたった1人だけの島である。したがって会話も聞こえない。電車や車が走っているわけはなく、離島であるから遠くの喧騒などもあるはずがない。そこいら中に無数の猫は見かけるものの、音もなく走り去るだけである。

Kuroshima_cat_w500px.jpg黒島の街並みと猫

 1504年、玉之浦納からの追っ手を逃れ黒島へたどり着いた五島家の宇久囲公は、島の少し高台になったところで従者とともに自害した。現在は、その場所に慰霊のための自然石が置かれ、その石を囲うように、共に自害した従者の小さな石が並んでいる。

Kuroshima_monument_h500px.jpg宇久囲公の慰霊碑

 またその横には、遭難したサンゴ船団の方たちを弔うための灯篭も並び、その前にはたくさんの仏様が収められたお堂が建っている。まるでさまざまな悲しみを慰めるための空間のようである。

 その空間の出口には、数多くのお地蔵様が並び、そこを抜けると小学校の跡が残っている。学校跡は、今でも子供たちの声が聞こえるほどに、そのままの姿で朽ち果てていて、より一層静けさが感じられる。

Kuroshima_school_w500px.jpg黒島の廃校跡

 その高台をさらに上に登ると島唯一の神社があり、人のいない今も灯りが灯されている。

 先ほどのお堂前の空間もそうなのだが、境内も誰かが定期的に草を払っているのか、きれいに整備されている。元住民たちの、この島を思う心は深く尊い。

 一時期は300人ほどの人が住んでいたこともあり、黒島の集落には今も多くの家が立ち並ぶ。人の姿が全くないことが、まるで違う空間に紛れ込んだようなとても不思議な感覚に陥る。そこに静かに佇むと静寂が身を包み、シーンという音が耳に痛いほど刺さる感触を覚える。

 もし静寂を感じたくなったら黒島に行ってみるといい。何も聞こえない日常がそこにはある。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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