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薬剤師にとってのスピリチュアリティ

2019年02月25日 13:00

獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科
井原 裕

 医療現場では、患者さんの生死と向き合わざるをえない状況があり、「スピリチュアリティ」へのニーズが生まれています。医療者としてはスピリチュアリティをどう扱ったらよいのでしょうか。

seishinka_1902.jpgIllustration:kazuto hashimoto

 医師も薬剤師も宗教家ではありません。だから、「スピリチュアリティ」(精神性とか、霊性と訳されます)などと言われれば、抵抗があることでしょう。でも、医療におけるスピリチュアリティのニーズが、がん医療の方からやってきました。

 厚生労働省は、2004年に「緩和ケア医療加算」を導入。2007年には、がん対策基本法により、こころのケアを制度的に担保しました。その際に、「スピリチュアル・ケア」なるものが忽然と医療の世界に現れたのです。

 前兆はありました。世界保健機関は2000年の総会で、健康の定義に「スピリチュアルな」を加えるべきかを議論していました。日本の終末期ケアに指導力を発揮してきたキリスト教系医療機関では、チャプレン(聖職者)によるパストラル・カウンセリングが既に行われてきました。

 このような「人生の意味」や「死の受容」といったテーマに、今後、医師も薬剤師も無関心ではいられなくなるでしょう。しかし、宗教家ではない私たちが、突然、神々しくなるのは変です。患者さんとの対話の中に、さりげなく、「こころ」に触れる話題を差し挟めば十分でしょう。

 自分を超えた存在を患者に意識させることは、それ自体がケアになります。あるいは、亡き父、亡き母の面影や、故郷の山並みを思い浮かべてもいいでしょう。幼いころに見た大河の流れでもいい。「時の流れ」を意識させることも悪くありません。

 例えば、DNAの話だって十分にスピリチュアルです。父や母、祖父母、その親、さらにその親というように、遺伝子が連綿と続いている生物学的事実は、「永遠」を意識させるに十分です。そのように自身の遺伝子を400万年ほどさかのぼれば、サルから進化したばかりの人類に、25億年ほどたどると、無機物から発生した原核生物に行き当たります。さらに46億年前までさかのぼれば、太陽系のちりから誕生したばかりの地球に出合い、150億年前まで振り返ると宇宙の原初に到達します。「地球」と呼ばれる天体で、「ヒト」という生物として生きるのは、わずか数十年。その間の悩みも苦しみも、150億年の宇宙の歴史の中に消えていきます。

 宗教に触れなくても、スピリチュアル・ケアは可能なのです。

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