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患者はOTCを服用、タミフルの在庫はたった3カプセル!?

ワクチン接種が主流~カナダのインフルエンザ事情

2019年02月28日 08:00

カナダで働く薬剤師 青山慎平

 今年も日本ではインフルエンザが大流行しているようですね。私が日本で薬局薬剤師をしていたときは、毎年インフルエンザが流行し、1日に何度もタミフルやリレンザの服薬指導をしたことを覚えています。

 ところが、カナダに来てからは、薬局でタミフルをあまり見かけません。その代わり、10月から12月にかけて、多くの人がインフルエンザワクチンを打ちに薬局に来ます。

 今回は、カナダのインフルエンザ事情について、私のインフルエンザワクチン接種の経験を踏まえて、ご紹介したいと思います。

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カナダではシーズンが近づくとインフルエンザワクチンの広告が一斉に町を彩る。「Flu shot」はインフルエンザワクチンという意味。カナダの薬局にはあまり抗インフルエンザ薬が置いていない。1~2月のピーク時でも薬局にタミフル1回分が在庫にあればマシなくらいだ

葉っぱのアイコン (1).png抗インフルエンザ薬の在庫があまり置いていないカナダの薬

 カナダで初めてタミフルの処方せんを受け取ったときのことは、鮮明に覚えています。タミフルの在庫がたった3カプセルしかありませんでした。当時はとても不思議に思ったものですが、カナダの抗インフルエンザ薬のガイドラインを学んでみると、その理由がわかりました。

 それは、インフルエンザの診断 = 抗インフルエンザ薬の投与 という考え方ではなく、あくまで一部の患者にのみ投与している、ということです。病気の重症度、リスクファクターの有無、発症してからの経過時間に応じて、投与するかどうか決定します。

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Association of Medical Microbiology and Infectious Disease Canada によるオセルタミビルとザナミビル使用のガイドライン。軽度のインフルエンザで喘息、COPD、循環器疾患、悪性腫瘍などのリスクファクターがない患者に対しては、「抗ウイルス薬の使用が考慮されうる」にとどまっている。一方で、リスクファクターがある場合や妊婦については積極的な使用が推奨されている。

葉っぱのアイコン (1).pngインフルエンザにかかっても病院にいかない人たち

 カナダ人はインフルエンザにかかっても病院にいきません。これは、カナダに住み始めて驚いたことの一つです。

 彼らが病気になったら、まずは市販のOTC薬(かぜ薬)を買いに来ます。

 カナダでは病院での待ち時間が長いため、スーパーに併設されている薬局で薬を選び、あとは家で安静にして経過を見る場合が多いようです。薬局に訪れるお客さんから、インフルエンザに効く薬について聞かれることもよくあります。症状がひどい場合やレッドフラッグとなる既往歴がある場合には、病院への受診を勧めます。

葉っぱのアイコン (1).png薬剤師がインフルエンザの検査を実施できるアルバータ州

 インフルエンザの検査は原則クリニックで行われていますが、アルバータ州では薬剤師がインフルエンザの迅速検査をすることができます。また、一部の薬剤師には「抗ウイルス薬の処方」も認められています。これによって、①治療のスタートを早くする ②病気を重症化させない ③医師の負担を軽減するなどの利点が生まれます。特に、インフルエンザは発症後即座の治療が求められる疾患であるため、薬局でそのまま治療を受けられるメリットは大きそうです。

葉っぱのアイコン (1).png薬局でもインフルエンザ予防接種が可能?

 下の表の通り、多くのカナダの州で、薬剤師によるインフルエンザ予防接種が認められています。

 私が働いているブリティッシュコロンビア州(以下BC州)もその一つです。ただし、薬剤師それぞれの認可制度をとっているので、ワクチンを打てる薬剤師と打てない薬剤師がいます。

州によって異なる薬剤師の業務領域 
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ScopeofPracticeinCanadaを基に編集部作成)

 BC州ではインフルエンザワクチン以外のワクチンも薬剤師が打ちます。特に帯状疱疹や肺炎球菌ワクチンなどが多く、最近は、帯状疱疹ワクチンShingrixがよく処方されていて1日に数回打つこともあります。Shingrix は不活化ワクチンで、筋注で2回に分けて投与しなければいけません。また高価で、痛みが出やすいことが難点です。

葉っぱのアイコン (1).pngワクチン接種の技術は意外に簡単。たった1日の講習だけで身につける

ワクチン接種のための講習は、座学がメインの午前の部と、実技中心の午後の部に分かれます。

 午前の部では、針の持ち方、バイアルから液剤を抜き取る技術、注射する体の部位を探す方法や注射する過程までを習い、メンターが常について懇切丁寧に教えてくれます。

 午後には実技実習に移り、受講者同士で生理食塩水を用いて接種の練習をします。この講習を通して身につける技術は、筋肉注射と皮下注射の2つです。注射可能な範囲が比較的広いため、難易度はそこまで高くありません。

 注射というと、「静脈内注射」をイメージしてしまいますが、それは難易度が高いため、薬剤師の実施は許可されていません。

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筋注も皮下注も比較的、注射をうてる範囲が広いため、思っていたより簡単であった。それでも最初に人に注射を打つのは心配であったが、徐々に慣れてくる。10人や20人も打てば、要領もつかめる。インフルエンザワクチンは、誰でも受けることができる。BC州で保険適応になるのは、65歳以上や妊婦、6か月~ 5歳未満の小児、呼吸器疾患などの既往のある患者など。また、薬剤師などの医療従事者も適応になる

葉っぱのアイコン (1).pngヒトに注射をすることはそんなに怖くない

 初めは、私も人に針を刺す行為そのものに恐怖心がありましたが、実際の講習と実務経験を通して、これらの不安は和らいでいきました。

 みなさん、新人のころにした処方箋の調剤や鑑査を覚えていますか?常にこれで良いのか、ドキドキしながらやっていたと思います。ワクチン接種も同じです。はじめは恐る恐るやっていた注射も、数をこなすうちに自然にできるようになるのです。あまり器用ではない私ができたので、きっとみなさんも簡単に身につけられると思います。

 私がワクチン接種で苦労したのが、いかに痛くないように注射するかということです。講習でだいぶ慣れたものの、患者さんを前にすると、やはり針を指すことに抵抗があり、当初はゆっくり刺していました。しかし、それでは患者さんはより痛みを感じやすくなります。思い切りが肝要です。

 ワクチンを注射する前には簡単な問診票を書いてもらうのですが、そこに記載している英語がわからない方もたくさんいます。そうした方には解説をしなければいけないため、注射を開始するまでにとても時間がかかることもあります。

葉っぱのアイコン (1).pngワクチン接種について薬剤師が知っておくべきこと

 ワクチン接種に必要な知識は、オンラインでの自己学習を通して学習します。

 学習する内容は、ワクチンの種類(生ワクチン、不活化ワクチン)、ワクチンのスケジュール、ワクチン同士の相互作用はないか、打つルート(皮下注射か筋肉注射か)、起こりうる副作用とその対応方法について、保管方法などです。

 例えば、相互作用について言えば、複数の生ワクチンを4週間以内のインターバルで注射することがガイドラインに記載されています。同じ日に接種するか、もしくは4週間以上空けることが推奨されています。

 ワクチン接種に伴う副作用の例として、注射部位の発赤、痛みや腫れなどの局所症状、微熱や頭痛などの全身症状、アナフィラキシーショックなどがあります。軽度の皮膚症状や微熱などに対しては、アイシングやアセトアミノフェン10~15mg/kg の4~6時間毎の投与を勧めます。一方で、アナフィラキシーショックについては911コール(カナダの緊急通報用電話)とエピネフリンの投与を行います。

葉っぱのアイコン (1).png薬剤師がワクチン接種をすることにはメリットがある

 薬局でワクチン接種することには、さまざまなメリットがあると思いますが、私が考える一番のメリットは、利便性の向上です。

 例えば、「今日少し時間があるから、ワクチンを打っていこうか」と薬局に気軽に寄れることです。病院と異なり、予約が不要です。また、ほとんどの薬局でワクチン接種のサービスを実施しているので、家の近くなど、どこでもよいというのもメリットの1つです。

 これらの利便性は、ワクチン接種率の向上にもつながりそうです。  

 日本の薬剤師がワクチンを打つ――その実現は、すぐには難しいですが、薬局が予防接種に関する情報の拠点になることは可能だと思います。

 薬剤師は、ワクチンや相互作用などについての正しい知識を患者に提供することができますし、インフルエンザワクチンが推奨されている方 (65歳以上の方や呼吸器疾患を持つ方) が薬局に来た際に、声をかけてあげることも可能です。

 まずは一言、「インフルエンザワクチンはもう打たれましたか??」と声をかけてみませんか?

◎ワクチンを打つためには、英語で患者さんとコミュニケーションを取る必要があります。
 ブログでは、私の英語勉強法などを紹介しています。

海外で薬剤師になるために必要な英語レベルについて

◎youtubeで「薬局で使える英語」を紹介しています

今月のオススメ
>アセトアミノフェンを英語で服薬指導!3つの質問で隠された問題点を発見しろ!

【コラムコンセプト】

薬剤師を取り巻く環境は日本と海外で違う。しかし、やっていることは本質的には同じ。患者のために薬を調剤し、鑑査し、投薬 (服薬指導) する。そして、その薬物療法を評価し、医師や他の医療従事者とより良い治療方法を再考していくこと。カナダの薬剤師事情を紹介しながら、日本での業務に取り入れられる方法を考えるコラム。

【プロフィール】プロフィール写真.jpg

1986年生まれ。名城大学薬学部卒。日本の病院薬剤師、調剤薬局、ドラッグストアで勤務した後、カナダへ留学。スプラットショーカレッジの薬剤師アシスタントプログラムを介し、Loblow pharmacyでインターン研修。2015年ブリティッシュコロンビア大学(UBC) CP3コース終了後、2016年カナダ薬剤師免許の取得。

blog: SHAWN'S WORLD
Twitter:@shinshinskysky

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