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ロキソプロフェンを飲む理由は左顎が痛いから。さて、どうする?

ハロー薬局薬局長 町田和敏

2019年03月06日 10:00

 皆さんいかがお過ごしでしょうか。釜石の薬剤師、町田です。このコラムでは、プライマリ・ケア認定薬剤師として私が行っている活動を紹介します。

 84歳のBさんには、ロキソプロフェンとレバミピドという、よくある処方が出ていました。この方に私はLQQTSFAを用いた臨床判断を行い、痛みの情報を掘り下げていきました(関連記事:高齢患者にロキソニンの処方箋 薬剤師はどう考える?)。ここでは、その後に行ったBさんへの対応を紹介します。

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 痛みに関わる情報を得て、私は次のように考えました。

  • ・顔の右半分は上下ともに歯がないが、そもそも入れ歯はあるのか?
  • ・入れ歯がないことにより、左顎に負担がかかっているのではないか?
  • ・入れ歯を入れて両側で噛むようになれば、痛みは軽減するのではないか?
  • ・食べ物の硬さはどうか?今後の噛む能力への影響は?
  • ・噛む能力の低下による影響はでていないか?(例えば認知機能はどうか?)
  • ・この状態を放置することで転倒したり、体の左右のバランスは崩れるのではないか?
    (噛み合わせと力の関係はスポーツ界でよく知られている)
  • ・この先の、加齢による摂食嚥下機能の衰えを考えると今のうちに入れ歯は作っておくべきではないか?
  • ・そもそも、入れ歯がない理由はなにか?

 こうした問いを、自分の中で組み立てたあと、目の前の患者さんと対話をしていきました。単純に、患者さんの気持ちを確認しながら情報提供をしていく、それだけを繰り返しました。

入れ歯がない理由がBさんにとっては重要だった

 まず、私は入れ歯の有無を確認しました。するとBさんは「入れ歯は合わないので、1日中外している」とおっしゃいました。入れ歯を外した状態が続くと、ますます合わなると言われています。Bさんのお話からは、入れ歯を作り直す必要性を感じました。そこで、かかりつけ歯科医はどこか、合わなくなった入れ歯を直そうと考えたことはないのかと確認しました。するとBさんは「実は…」と切り出し、気持ちを吐露されました。

  • ・かかりつけの歯科医は近所の歯科医であり、そこで入れ歯を作った
  • ・しかし、入れ歯が合わなくなり、かかりつけ歯科医に2〜3回直してもらった
  • ・何度直しても合わなくなるので、友人から別の歯科医にかかるよう勧められた
  • ・別の歯科医にかかることを想像すると、近所のかかりつけ歯科の前を通る度に申し訳なくなる
  • ・申し訳なくなるので、別の歯科医を選択できない

 Bさんが合わない入れ歯を治さず、入れ歯のないままで過ごしていたのには、こうした理由があったのです。

 私は、医療従事者として、入れ歯を使用する必要性を伝えました。たとえ後ろめたさを感じているとしても、Bさんの健康を考えると歯医者の変更は必要かもしれない、と伝えました。もちろん、無理矢理にではありません。Bさんの話を傾聴し、共感し、気持ちに配慮しながら情報提供を繰り返しました。毎回毎回ではBさんにも「しつこいなぁ……」と思われてしまうので、2~3回の来局に1回のペースで繰り返していました。

 するとある日、Bさんから「入れ歯を作り直すために、別の歯科に行こうと思います」とお声かけいただきました。それから数ヶ月後、入れ歯を入れた姿で来局され、感謝の気持ちを述べられました。

別の痛みの原因の可能性を考慮できなかった

 さて、実は、今回のケースは半分成功で、半分失敗だと感じています。

 患者さんの今後の健康面への寄与を考えると、患者さんの気持ちに寄り添いながら入れ歯を作るという行動変容に至ったのは良かったなぁと思います。しかし、入れ歯を作成してから数ヶ月後に、Bさんは当薬局を訪れなくなりました。患者さん宅に連絡を取ろうかと考えていると、系列店舗の薬剤師から情報をいただきました。Bさんは神経内科を受診し、三叉神経痛疑いで治療をしているとのことでした。

 今回、自分の行動の中で「失敗した」と感じるのは、上手くフォローができなかったことです。Bさんは、入れ歯を作っても、痛みがおさまらなかったのだろうと思います。入れ歯に関連する、噛む動作などの習慣による痛みの可能性は除外できたという点では良かったのかもしれません。しかし、その他の原因がある可能性を考慮し、受診勧奨も含めて医療従事者として対応できなかったという点で反省しています。

 ちなみに、系列店舗から連絡があったことが不思議だと思いませんか?どうやらBさんは、系列店舗に来局した際に、私のことをお話しされていたようなのです。そこでも感謝の念を述べられていたと聞いて、ほっとしたことを覚えています。系列店舗での動向は、情報共有しておりますので、今後のBさんの状態次第では、このコラムで紹介できる日が来るかもしれません。

 以上が、今回のBさんに対する行動です。読んでいる皆さんの中には、私だったらこうする、という考えがあると思います。コラムに記載した私の行動が『正解』だというわけではありません。まして、読者の皆様の身の回りの症例に当てはまるかどうかは分かりません。自分の行動が概ね正しいかどうかは、目の前の患者さんの経過を見ることでしか判断できないからです。ですので、読者の皆さんには「へぇ〜こんなことを考えている薬剤師がいるんだぁ」くらいの気持ちで読んでいただければと思います。

 次回は、また別の事例を紹介していきたいと思います。

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釜石は沿岸ということもあり雪は多くないのですが、稀に降る雪をまとった釜石大観音は荘厳な雰囲気を漂わせています。めったに見れない1枚です

【連載コンセプト】
私たち薬剤師は、その存在意義について、多くの国民から懐疑的な目で見られています。薬剤師の存在価値とは何なのか、そんなことを考えながら、日々実践している活動の数々を紹介していきます。

また、実際に私自身が経験した事例を紹介し、そのときに考えたことも述べていきます。そして、なるべく読者の皆さんと一緒に考える場所にしたいとの思いから、『皆さんならこの場面でどう考えますか?』と投げかけた上で、次の回に私の行動を紹介するという構成で展開するつもりです。

と、ここまでコンセプトを書きながら、とても陳腐な文章になってしまいそうな予感がしますが、「へぇ、こんなことを考えている薬剤師がいるんだ」くらいの軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。そして、読者の皆さんに何か少しでも感じていただければと思っています。

【プロフィール】

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大学入試4浪、国家試験1浪、と落ちこぼれ街道まっしぐら。昭和薬科大学へ入学し、サッカー部で自称監督として、七面鳥フォークソング部ではVocal&Bassとして、大学生活を謳歌する。卒業後、縁もゆかりもない釜石へ。浪人時代に思い描いた、ドイツに留学し、サッカーの指導者になる夢を叶えるため、保険薬局で働いて留学資金を貯めようと試み、有限会社中田薬局へ就職する。

東日本大震災を経験し、釜石でのさまざまな人々との出会いを経て、「この地域のために薬剤師として、人として、何ができるのか」と考え始めて今に至る。中田薬局・地域包括ケア担当者。ハロー薬局薬局長。ケアカフェかまいし支配人。有志の勉強会・釜石コンテント代表。

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