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鼻炎用薬~花粉症の飲み薬、どれを選んだらイイですか?- 後編

医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一

2019年03月12日 10:00

 患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。

薬の無料アイコン9.png今回のお話「どの花粉症の薬を選べばいい?」

  • 花粉症を患っている人は思いのほか多い
  • 花粉症、どんな症状が問題となる?
  • 基本的な薬物治療の考え方
  • 有効性の観点から使い分け
  • 抗ヒスタミン薬によるインペアード・パフォーマンスは実在するのか?
  • 眠気が出ると言われれば本当に眠くなる?
  • 結局のところ、どんなふうに薬を選べばよい?
  • 妊娠、授乳中の方への対応

薬の無料アイコン9.png今回出てくるOTCは・・・

エバステルAL(興和株式会社)、ストナリニZ(佐藤製薬株式会社)、コンタック鼻炎Z(グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社)、アレジオン20(エスエス製薬株式会社)、アルガード持続性鼻炎シールド(ロート製薬株式会社)、アレグラFX(久光製薬株式会社)、クラリチンEX(大正製薬株式会社)、ストナリニ・ガード(佐藤製薬株式会社)、アレギサール鼻炎(田辺三菱株式会社)、ザジテンAL鼻炎カプセル(ノバルティスファーマ株式会社)


薬の無料アイコン9 (1).png抗ヒスタミン薬によるインペアード・パフォーマンスは実在するのか?

 鼻症状に対する有効性に大きな差異がないとすれば、副作用の最も少ない薬剤を優先的に選ぶという方法は合理的といえそうです。抗ヒスタミン薬の代表的な副作用には、眠気などの鎮静作用が挙げられます。実際、アレグラFXとクラリチンEXを除く各製剤の添付文書には、「してはいけないこと」の項に眠気に関連した注意喚起が記載されています。

 眠気を催さないまでも、抗ヒスタミン薬は集中力や判断力の低下を招く可能性があり、これをインペアード・パフォーマンス(Impaired Performance)などと呼んでいます。しかし、集中力や判断力の低下が、薬の副作用によるものなのか、花粉症の症状によるものなのか、厳密な区分は難しいというのが僕の考えです。

 抗ヒスタミン薬の鎮静作用について文献的考察をしていきましょう。まず、一般的に抗ヒスタミン薬は世代が古いほど、傾眠の副作用が強いと言われています。これは脳内のヒスタミン受容体占有率から推測された鎮静作用強度17)を根拠にしたものです【表3】。

【表3】脳内ヒスタミン受容体占有率から推測される抗ヒスタミン薬の鎮静作用強度

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(参考文献17より筆者作成)

「非鎮静」に該当する薬剤の方が、「鎮静」や「弱鎮静」に該当する薬剤よりもインペアード・パフォーマンスを来しにくいと言うわけです。確かに鎮静作用はロラタジンやフェキソフェナジンで弱く、セチリジンで強いという研究報告18,19)があり【表3】を支持する結果となっています。

 しかし、プラセボ、ジフェンヒドラミン、またはロラタジンを比較して、小児の学業成績を比較した研究20)では、3群で明確な差はありませんでした。一般的に、鎮静作用が強いと考えられているジフェンヒドラミンですが、18研究のシステマチック・レビュー21)においては鎮静作用に関して一貫した研究結果は示されません。ジフェンヒドラミンについては、鎮静作用による耐性の影響で、4日目までにプラセボと同等まで眠気が減るという報告22)もあります。【表3】で非鎮静に該当していない薬剤であっても、継続して服用していれば眠気が気にならないケースも多いかもしれません。

 これらの研究結果が示唆しているのは、【表3】に示した理論上の鎮静作用の強弱が実際の薬剤効果を反映していない可能性です。さらに言えば、臨床試験実施時に被験薬の副作用について、どのように説明したかによっても、副作用発現率は変わる可能性があります。

薬の無料アイコン9 (1).png眠気が出ると言われれば本当に眠くなる?

 抗ヒスタミン薬の服薬指導において、鎮静作用に起因する有害事象に関する説明をすることも多いはずです。例えば、傾眠や自動車運転の可否などです。しかし、こうした説明こそが薬の作用とは関係なくインペアード・パフォーマンスを生み出している可能性があります。

 プラセボがもたらす有益な治療効果をプラセボ効果と呼びますが、逆に治療効果に悪い影響を与えるものをノセボ効果と呼びます。簡単に言えば、患者さんの思い込みから、本当に副作用が出てしまう現象のことです。

 副作用の説明の仕方一つで、本当にその薬に特有の副作用(眠気など)を誘発させてしまう可能性があるのです。

思い込みで副作用が出てしまうノセボ効果

 脂質異常症の治療薬であるスタチン系薬剤の有害事象は、その多くがノセボ効果かもしれないという報告23)があります。また、2001年にPfingstenらによって報告されたランダム化比較試験24)では、介入に関する説明が異なると、患者に現れる介入効果も異なってくる可能性が示されています。この研究では、慢性腰痛を有する50人を対象に、運動器具を用いて足の屈曲運動をさせました。参加者は、研究の実施前に、「運動をすると疼痛が増加する」と説明された群と、「運動しても痛みは増加をもたらさない」と説明を受けた群にランダムに割り付けられています。その結果、痛みが増えると説明されたグループでは本当に痛みが増加し、痛みが増えないと説明された群では、痛みが低下したのです。

 同様な報告が抗うつ薬の副作用を検討したシステマチックレビュー・メタ解析25)からも上がっています。この研究では、抗うつ薬に関する143件の臨床試験データを用いて、三環系抗うつ薬プラセボと、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)プラセボの有害事象を比較しています。

 三環系抗うつ薬は、SSRIに比べて抗コリン作用が強く、口渇や便秘など有害事象リスクが理論上高いと考えられます。では、三環系抗うつ薬、SSRIそれぞれのプラセボを比較した場合はどうでしょう?解析の結果、SSRIプラセボと比べて、三環系抗うつ薬プラセボで、口渇が3.5倍(オッズ比3.5[95%CI2.9~4.2]、傾眠が2.7倍(オッズ比2.7[95%CI2.2~3.4]、便秘が2.7倍[オッズ比2.7[95%CI2.1~3.6])、有意に多いことが示されました。

 本来、どちらも同じプラセボなので有害事象の発生率に大きな差は出ないはずです。しかし、有害事象発現率は、実薬のそれと類似するという結果でした。この研究結果が示唆しているのは、臨床試験中に被験者に対して行われた副作用に関する説明の差異が、副作用発現率に大きく影響を及ぼしている可能性です。

薬の無料アイコン9 (1).png結局のところ、どんなふうに薬を選べばよい?

 今回のケースで言えば鼻症状の改善や眠気の副作用は比較観点の重要ポイントと言えますが、その違いがあまり明確ではないときに、どのような観点から違いを見いだしていけばよいかという問題があります。それは薬理学的な作用機序であったり、1日の服用回数であったり、値段かもしれません。しかし、よくよく考えてみれば、比較を行う観点(着目点)は無数に存在しており、どれを重視するかは、比較する人間のそれぞれの関心に依存しています。端的に言えば、どのような観点からの比較が正しい比較なのか絶対的な基準は存在しません。

 そのような中、薬の使い分けを考えるとき、何を重視すればよいでしょうか。花粉症の治療目的を思い出してください。まずは困っている、あるいは不快と感じている症状を緩和し、日常生活に支障を来している状態を改善することでした。今回のケースでは薬の有効性や鎮静作用からいったん視点を外し、相談者の併存疾患や併用薬を踏まえた上で、「好み」や「ライフスタイル」を優先的に考慮することができるでしょう。論文情報に基づき、科学的に薬の有効性、安全性を評価した先に、どの薬剤でも大差がないことが分かりました。少々逆説的かも知れませんが、科学的に考察したからこそ、価値観の多様性を重視できるのです。

薬の無料アイコン9 (1).png妊娠、授乳中の方への対応

 最後に、妊娠もしくは授乳中のお客さんへの薬剤選択についてまとめていきます。妊娠・授乳中では、なんでもよいというわけにはいきません。【表1】に挙げた薬剤のうち、妊婦または妊娠していると思われる人に関する注意喚起として、「してはいけないこと」に記載があるのは、アレギサール鼻炎でした。それ以外の薬剤では「相談すること」となっていますが、個人的には、妊娠初期から器官形成(7週)までの期間にある方に対しては、できる限り薬の販売は控えたいと考えています。

 日本アレルギー学会のガイドライン20171)では、妊娠4、5カ月までは非薬物療法が推奨されています。具体的には、温熱療法、入浴、蒸しタオル、マスクなどです。妊娠後期において、どうしても内服薬で治療をしたいと考えている人には、クラリチンEXの安全性が最も高いと考えられます【表4】。

【表4】妊婦に対する抗ヒスタミン薬の安全性

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■米食品医薬品局(FDA)基準 A:ヒト対象試験で危険性が見いだされない。B:ヒトでの危険性の根拠はない。C:危険性を否定することができない。D:危険性を⽰す確かな根拠がある。X:妊娠中は禁忌。
■オーストラリア基準 A、B1、B2、C、D、Xで評価。Aが最も安全。詳細は以下URLを参照
https://www.tga.gov.au/australian-categorisation-system-prescribing-medicines-pregnancy
(参考文献1より筆者作成)

 また、【表1】に掲載した薬の製剤添付文書には、「してはいけないこと」の項目に「授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けてください」と記載があります。「避ける」という言葉はかなり曖昧な表現ではありますけど、どうしても投与が必要なケースではクラリチンEXやストナリニZ/コンタック鼻炎Z、アレグラFXを考慮できるかもしれません【表5】。

【表5】授乳中の抗ヒスタミン薬の安全性

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(参考文献26より筆者作成)

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【参考文献】
1) Allergol Int. 2017 Apr;66(2):205-219. PMID: 28214137
2) 日本小児アレルギー学会誌2013 年 27 巻 2 号 p. 149-169
3) 東京都福祉保健局 花粉症患者実態調査報告書
4) Acta Otolaryngol. 2011 Mar;131(3):290-7.PMID: 21142746
5) Curr Med Res Opin. 2006 Jun;22(6):1203-10.PMID: 16846553
6) 医薬ジャーナル 50(3), 103-111, 2014-03
7) BMJ.1998;317:1624-9. PMID:9848901
8) Ann Allergy Asthma Immunol.2002;89:479-84 PMID:12452206
9) Am J Respir Med.2003;2:55-65. PMID:14720022
10) Ann Allergy Asthma Immunol.2008;100:264-71. PMID:18426147 
11) PLoS One. 2018 Mar 7;13(3):e0192758. PMID: 29513699
12) Psychother Psychosom. 2016;85(6):373-374. PMID: 27744433
13) Arerugi. 2006 May;55(5):554-65. PMID: 16883093
14) Allergol Int.2017;66:97-105. PMID:27421817
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16) Clin Exp Allergy.2009;39:1338-47.PMID:19438584
17) Pharmacol Ther. 2007 Jan;113(1):1-15. PMID: 16890992
18) J Allergy Clin Immunol. 1999 Nov;104(5):927-33. PMID: 10550734
19) BMJ. 2000 Apr 29;320(7243):11 p. 243-24884-6. PMID: 10784544
20) J Pediatr. 2001 May;138(5):656-60. PMID: 11343039
21) J Allergy Clin Immunol. 2003 Apr;111(4):770-6. PMID: 12704356
22) J Clin Psychopharmacol.22(5):511-5,(2002) PMID:12352276
23) Lancet. 2017 May 2. pii: S0140-6736(17)31075-9. PMID: 28476288
24) Pain Med. 2001 Dec;2(4):259-66.PMID:15102230
25) Drug Saf. 2009;32(11):1041-56. PMID: 19810776
26) 大分県『母乳と薬剤』研究会 編 母乳とくすりハンドブック

薬剤師、登録販売者のためのOTC連載です。OTC医薬品に対する考え方、使い方について「実践的」に整理します。筆者のドラックストアでのバイト経験と、具体的な薬剤エビデンスに基づき、実際の患者にどうアプローチしていけばよいのか、ピットフォールなどを交えて解説していきます。

【プロフィール】
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保険薬局勤務を経て、現在は病院薬剤師。NPO法人AHEADMAP共同代表。
普段は論文を読みながら医師に対して処方提案などを行っていますが、薬剤師によるEBMの実践とその普及に関する活動もしています。

公式ブログ:思想的、疫学的、医療について
Twitter:@syuichiao89

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