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薬局を拠点にした薬物依存症対策

~日常生活に根差した治療には薬剤師の関わりが不可欠!~

2019年04月03日 08:00

カナダで働く薬剤師 青山慎平

 カナダでは毎年、多くの人が麻薬を違法入手し、その過量投与で命を落としています。とりわけ、近年急激に増加しているのが、ヘロインなどのオピオイド系鎮痛薬の乱用です。2017年に、カナダでオピオイドが原因で亡くなった方は、3,987人でした。これは1日あたり10人が亡くなっている計算です。この「オピオイドクライシス」はカナダにおける社会問題となっており、ブリティッシュ・コロンビア州では、州を挙げた対策が取られています。その1つが「ハームリダクション」という取り組みです。また、こうした状況にあるカナダにおいて、薬物中毒における薬剤師の貢献は計り知れません。今回は、ブリティッシュ・コロンビア州が実施しているハームリダクションの取り組みと、薬物中毒に関する薬剤師の業務を紹介します。

葉っぱのアイコン (1).png麻薬用の注射器を無料で配布? 真逆のアイデア 「ハームリダクション」とは

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 オピオイドクライシス――オピオイド違法摂取による死亡者の急増。この異常事態を食い止めるため、ブリティッシュ・コロンビア州は、「オピオイドの摂取を止めさせる」という一般的な依存症に対するアプローチとは真逆のアイデアを採用しました。「ハームリダクション」です1)。ハームリダクションとは、その言葉の通り、「Harm(ハーム)」を「Reduction(リダクション)」すること。つまり、害を減らすことを意味します。警察による取り締まりももちろん行われていますが、それだけではオピオイド中毒問題を解決することができません。それならば、被害を最小限にしようという考え方です。

 canada20_fig1.jpg ハームリダクションの施設である『Insiteインサイト』。 バンクーバー市のダウンタウン東側、ペンダーストリートに位置している。ここでは、清潔な注射針の配布や正しい注射方法の指導などを行っている。

 バンクーバー市には「Insite」という、ハームリダクションの取り組みの一環として建てられた薬物自己注射施設があります。そこでは、 清潔な注射針やアルコール綿が無料配布されています。また、監視員が常駐し、正しい注射方法の指導やオーバードーズ時の対応を行っています。

 Insiteを初めて知ったとき、「このようなやり方では、余計にオピオイドの問題が悪化するのではないか?」と思いました。しかしその後、薬物問題について調べるなかで、Insiteのような施設の重要性を知ることになりました。

 オピオイドクライシスの問題は、過剰摂取による死亡者の増加や依存症のまん延に限らず、不衛生な注射針の使い回しによってHIVやC型肝炎といった感染症が驚異的に増加したことでもあります。Insiteでの「注射キット」の無料配布により、HIVやC型肝炎ウイルスの感染率は明らかに低下しました2)

 またInsiteでは、 オピオイド中毒患者に対するカウンセリングを通して、治療への誘導も行っています。治療することを決めた患者には、医師によりメサドンなどの薬剤が処方されます。そして、薬剤師の出番となります。

canada20_fig2.jpgインサイトの施設の中の様子。個別に注射が打てるように、仕切られている。

葉っぱのアイコン (1).png薬局が薬物依存症治療の拠点

 ここからは、私が働く薬局での薬物依存症治療の取り組みを紹介します。

 どんな人とも仲良くなってしまう薬局長のジョージには、とりわけ仲のよい患者がいます。ブライアン(仮名)です。ブライアンは体つきががっしりした気さくな男性で、毎朝9時にやってきます。来局の目的は、オピオイド中毒の治療です。

 オピオイド中毒の患者で最も難しいのは、治療を続けること。そのため、薬局が治療の拠点となって、薬剤師が毎回、アドヒアランスを確認します。

 治療に使われる薬の1つが、メサドンという、100%ぶどうジュースの色をしたオピオイド薬です。メサドンは薬局で服用します。薬剤師は、患者が服用している瞬間を確認します。中には、口薬を飲み込まず口に含み、それを他人に転売するなど、別の目的で使用する人がいるからです。しっかりと飲み込んだことを確認するために、薬剤師は患者との会話が求められています(口を開くからですね)。

 メサドンを鑑査する際には、他の場所でのメサドン重複投与を防ぐため、クラウドの薬歴で服用歴を注意深く確認します。

 私達スタッフが薬を準備している間、ブライアンはジョージと何気ない会話をしています。

canada20_fig3.jpg オピオイド中毒の治療に用いるメサドン。色はまるで葡萄ジュースのよう。患者に応じて、服用量や薬局へ来る頻度が異なる。医師と話し合って、来局頻度を設定する。

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