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「介護があるから働きたいけど働けない」

――患者さんがもらした本音

2019年04月09日 10:00

ハロー薬局薬局長 町田和敏

 皆さんいかがお過ごしでしょうか。釜石の薬剤師、町田でございます。

 薬局で患者さんと話している際、どのようなことに注意しますか?

 私がお勧めしたいのは、目の前の患者さんの口腔内の状態を観察することです。そこから、その方の新たな一面を発見できるかもしれません。

 また、口腔内に影響を与える薬剤もあります。たとえば、抗コリン薬では口渇の副作用が出やすいですよね。それらを評価した結果、歯科や言語聴覚士(ST)との連携につながることもあるでしょう。私達薬剤師は、面と向かって患者さんと話す機会が多いからこそ、患者さんの状態の変化に気付き、他職種と共有していく必要があると日々感じています。

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 さて、前置きが長くなりましたが、今回は、60歳代の男性の事例を紹介します。

64歳 男性 Cさん
シタグリプチンリン酸塩水和物錠50mg 1錠 1日1回朝食後
グリクラジド錠20mg 1錠 1日1回朝食後
メトホルミン塩酸塩錠250mg 2錠 1日2回朝・夕食後
ファモチジン口腔内崩壊錠20mg 2錠 1日2回朝・夕食後

 糖尿病の治療をされている方です。私とCさんの最初の服薬指導は、お互い良い印象を持たなかったのではないかと記憶しています。

始めは互いに良い印象を持てなかった

 新人時代に初めてCさんに服薬指導したときには、「説明はいいから早くして」と言われました。その日は病院が混んでおり、薬局でお待たせしてしまったので、Cさんの我慢の限界を超えてしまったのでしょう。それからしばらくは、Cさんとの服薬指導時の会話に苦慮したことが思い出されます。根に持っているわけではないのですが、昨日の出来事のように覚えています。新人の私にとっては、それ程衝撃を受けた経験でした。

 そんなCさんですが、薬局で何回も会話を繰り返す中で、色々なことを話してくれるようになりました。何回も、と簡単に書きましたが、期間で言うと数年にわたってです。初めのうちは、血糖値のコントロールが上手くいかないのはなぜか?といった、よくある相談内容でした。こちらも薬剤師になって間がなかったので、一般的な食事指導で精一杯だったと記憶しております。

他愛もない声かけで一気に距離が縮まる

 Cさんが話してくれるようになったキッカケは、他愛もない声かけでした。それは「お仕事忙しそうですね」という、Cさんの生活面にほんの少しだけ踏み込んだ質問でした。思えば、新人時代の私は、薬剤師として薬に関することを確認したり説明しようとし過ぎていたのでしょう。Cさんとの会話や関係性の変化により、患者の背景を知ることの重要性を考えるようになりました。

 さて、薬局で顔を合わせる回数が増えるに従って、背景だけでなく、相談や悩みも打ち明けてくれるようになり、Cさんの人となりが分かってきました。私自身の薬剤師(医療人)としての成長もあったかと思いますが、Cさんの状況を理解しようと傾聴し、共感の念を述べていたことが、患者さんの背景を知る上では大きかったのではないかと個人的には感じております。

繰り替えしの接触で好感度が上昇

 心理学分野の「ザイオンス効果」という言葉をご存知でしょうか?1) 別名「単純接触効果」とも言われる心理効果で、文字通り何度も繰り返して接触することにより、好感度や評価等が高まっていくことです。何回もの服薬指導の結果、Cさんが話してくれるようになった背景には、この心理効果も影響していると考えます。ただし、繰り返し接触しても私の評価が悪ければ、良い効果は得られません。そこでは、傾聴と共感の姿勢でコミュニケーションをはかったことも大きかったと思います。傾聴や共感は、コミュニケーションやカウンセリングの分野では必ず取り上げられる概念です2)。我々薬剤師は、処方箋を受け付けると、薬をお渡しすることをゴールとしてしまいがちです。しかし、患者さんと関わろうと思うのであれば、患者さんの人生を理解しようとした上で、中長期的な視点で考えることが重要なのではないでしょうか。

「本当はまだ働きたい」と本音を漏らしたCさん

 Cさんの事例に戻りましょう。ある日Cさんは、次のような発言をされました。

「実は、おっかぁ(妻のこと)が障害を持っていてね、下の世話も含めて、介護をしているんだ。本当はまだ働きたいんだけどね」

 この発言を聞いた私は、ある行動をすることになります。さてそれは何でしょうか?次のページでは、私の行動を記した回答編を公開しています。一度考えてから、回答編をみていただければ幸いです。

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鉄と魚とラグビーの街、釜石。地元のラグビーチーム、釜石シーウェイブスの応援風景です。トライが決まると沢山の大漁旗(別名:フライキ)が風になびいて爽快です。なお、写真に写るキャラクターは『なかぴ~』と言って、釜石シーウェイブスのマスコットです。釜石シーウェイブスなのに、なぜ名前がなかぴ~なのか、今後解説していきたいと思います(笑)

【連載コンセプト】
私たち薬剤師は、その存在意義について、多くの国民から懐疑的な目で見られています。薬剤師の存在価値とは何なのか、そんなことを考えながら、日々実践している活動の数々を紹介していきます。

また、実際に私自身が経験した事例を紹介し、そのときに考えたことも述べていきます。そして、なるべく読者の皆さんと一緒に考える場所にしたいとの思いから、『皆さんならこの場面でどう考えますか?』と投げかけた上で、次の回に私の行動を紹介するという構成で展開するつもりです。

と、ここまでコンセプトを書きながら、とても陳腐な文章になってしまいそうな予感がしますが、「へぇ、こんなことを考えている薬剤師がいるんだ」くらいの軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。そして、読者の皆さんに何か少しでも感じていただければと思っています。

【プロフィール】

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大学入試4浪、国家試験1浪、と落ちこぼれ街道まっしぐら。昭和薬科大学へ入学し、サッカー部で自称監督として、七面鳥フォークソング部ではVocal&Bassとして、大学生活を謳歌する。卒業後、縁もゆかりもない釜石へ。浪人時代に思い描いた、ドイツに留学し、サッカーの指導者になる夢を叶えるため、保険薬局で働いて留学資金を貯めようと試み、有限会社中田薬局へ就職する。

東日本大震災を経験し、釜石でのさまざまな人々との出会いを経て、「この地域のために薬剤師として、人として、何ができるのか」と考え始めて今に至る。中田薬局・地域包括ケア担当者。ハロー薬局薬局長。ケアカフェかまいし支配人。有志の勉強会・釜石コンテント代表。

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