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中性脂肪異常改善薬~中性脂肪値が高いのですけど薬を飲んだほうがイイですか?- 前編

医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一

2019年05月16日 14:00

 患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。

薬の無料アイコン9.png今回のお話「中性脂肪異常改善薬は飲んだ方がいい?」

  • 市販の中性脂肪異常改善薬
  • n-3系不飽和脂肪酸とは?
  • EPAが中性脂肪異常改善薬に用いられるようになった背景
  • 魚をより多く食べている人では心臓病が少ない?
  • サプリメントや医薬品としての摂取
  • 高純度EPAが体に良い? JELIS試験の問題点
  • REDUCE-IT試験の意外(!?)な結果
  • 中性脂肪が高いとはどういうことか?
  • 結局のところどうする?

薬の無料アイコン9.png今回出てくるOTCは・・・

エパデールT(大正製薬)


 “エパデールT、第1類移行を了承”

 ほうほう、なるほろ……と、薬事関連ニュースをポータルサイトでチェックしていた薬剤師のあなた。ちょうどその時、開店5分前にもかかわらず、一人の男性客がカウンター越しにやってきました。

「あの、会社の健康診断で、中性脂肪が高いという結果が出たんです。これまで大きな病気をしたことはありませんし、食事なども気を付けていたので、びっくりしました」

 健診結果を見て、その数値に大きなショックを受けたようです。差し出された結果を見てみると、中性脂肪(トリグリセリド)の値は280mg/dL。一般的な基準の50~150mg/dLを大きく上回る結果となっていました。

「今のところ治療の必要ないけれど、気になるなら薬局でも中性脂肪の薬は買えるからと、医者には言われたんです。薬でなんとかなるのなら、飲んでみたいと思うのですが……」

 カウンター下に在庫してあるエパデールTに目が行ったあなた。ところが、ここでふと疑問がわいてきました。“中性脂肪が高い”というのは、なんとなく健康に悪そうなイメージはあるけれど、中性脂肪を下げると健康上どんなメリットがあるのだろうか……。もちろん、心筋梗塞を予防し、健康的になれるイメージはあるけれど……それって本当なの?そもそも医師に“今のところ治療の必要はない”と言われているんだよねぇ……。

 そんなふうに考えたあなたは、販売を少し躊躇してしまいました。

薬の無料アイコン9 (1).png市販の中性脂肪異常改善薬

 2019年4月現在、中性脂肪異常改善薬として購入できるOTC医薬品はエパデールTのみです(エパアルテは2014年9月に販売中止)。その成分はイコサペント酸エチルで、効能・効果は『健康診断等で指摘された境界領域の中性脂肪値の改善』となっています。

 基本的には医療用として用いられるエパデールSと同成分であり、その用量も1,800mg/日と同等です(医療用は程度により2,700mg/日まで増量可)。なお、境界領域の中性脂肪値とは具体的に150mg/dL以上 300mg/dL未満を指します。

【図1】市販で購入できる主な中性脂肪異常改善薬

市販で購入できるエパデール.png
(筆者作成)

薬の無料アイコン9 (1).pngn-3系不飽和脂肪酸とは?

 脂肪酸は、三大栄養素の1つ、脂質を構成する成分ですが、その化学構造における二重結合の数によって3種類に分けられます。すなわち、二重結合が存在しない飽和脂肪酸、二重結合が1つの一価不飽和脂肪酸、二重結合を2つ以上含む多価不飽和脂肪酸です。

 多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸ですが体内で生合成できないため主に植物油魚類から摂取することになります。この多価不飽和脂肪酸の化学構造に含まれる二重結合が、末端のメチル基から6番目の炭素にあるものをn-6系多価不飽和脂肪酸(オメガ6系脂肪酸)、末端のメチル基から3番目の炭素にあるものをn-3系多価不飽和脂肪酸(オメガ3系脂肪酸)と呼びます。

 n-3系多価不飽和脂肪酸には、エイコサペンタ塩酸(eicosapentaenoic acid:以下EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:以下DHA)などがあり、医薬品のエパデール®はイワシの魚油から、EPAをエチルエステル化し、高純度で精製したものです。ちなみに高脂血症に適応を持つ医療用医薬品ロトリガ®粒状カプセルの一般名は「オメガ‐3脂肪酸エチル」となっており、その主成分はEPAとDHAです。

薬の無料アイコン9 (1).pngEPAが中性脂肪異常改善薬に用いられるようになった背景

 n-3系多価不飽和脂肪酸がなぜ中性脂肪高値の患者に用いられるようになったのでしょうか。そのきっかけとなったのが、デンマーク領グリーンランドに住んでいたイヌイットの人たちと、デンマーク人とを比較した疫学調査でした。イヌイットとは氷雪地帯に住むエスキモー系諸民族の1つで、人種的には日本人と同じモンゴロイドです。

 1971年、グリーンランドのイヌイットはデンマーク人よりも中性脂肪値が低いことが、Bangらにより報告されました1)。その後、Bangらはイヌイットの食事パターンを調査し、EPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む肉類(アザラシや魚類等)の摂取が多いことを明らかにしています2)

 1978年にDyerbergらが、また1980年にKromannらが、伝統的な生活をしているグリーンランドのイヌイットは血中のEPA濃度が欧米白人に比べてはるかに高く、さらには心筋梗塞などの虚血性心疾患が欧米白人に比べて少ないことを報告しています3,4)

 一連の研究結果から、多価不飽和脂肪酸、特に海産物由来の油に多く含まれるEPAの抗​​血栓作用が、イヌイットの虚血性心疾患リスク低下をもたらしているのではないか、と考えられるようになりました5)【図1】。

【図1】n-3系多価不飽和脂肪酸が医薬品として用いられるようになった背景6)

23380_fig1.png

(参考文献6より筆者作成)

 

 

薬の無料アイコン9 (1).png魚をより多く食べている人では心臓病が少ない?

 魚の摂取量が多いほど心筋梗塞の発症が少ないことは、近年の疫学調査7,8)でも示されています。さらに、米国地域住民を対象とした前向きコホート研究9)では、魚介類の摂取が多い高齢者ほど健康長寿でいられる可能性が高いことが示されています。

 この研究では、米国に在住している健常高齢者2,622人(平均74.4歳)が解析の対象となり、血中のn-3系多価不飽和脂肪酸濃度と健康長寿の関連性が検討されています。ちなみに、本研究における健康長寿とは、心血管疾患、がん、肺疾患、慢性腎臓病などの慢性疾患や、認知機能・身体障害のない生存、またはその他の要因による65歳以上の死亡と定義されました。

 最長で22年間にわたる追跡調査の結果、血中のn-3系多価不飽和脂肪酸濃度が最も高い集団では、最も低い集団に比べて非健康長寿となる(健康長寿ではない)リスクが18%低下することが示されています(ハザード比0.82[95%CI 0.70~0.97])。

 欧米と比較すると潜在的に心筋梗塞の発症リスクが低い日本人ではどうなのでしょうか。心血管疾患およびがんの事前診断を受けていない40〜59歳の合計4万1,578人の日本人男女を対象としたコホート研究10)では、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多い集団で心血管疾患の発症が少ないという、同様の傾向が示されています。

 本研究の主な解析の結果を【図2】に示します。魚の摂取量が最も多い集団(中央値180g/日の摂取)では、最も少ない集団(中央値23g/日の摂取)と比べて、非致死的冠動脈疾患イベントの発症リスクが57%有意に低下(ハザード比0.43[95%CI 0.23~0.81])、また全冠動脈疾患の発症リスクも37%低い傾向にありました(ハザード比0.63[95%CI 0.38~1.04])

 同様に、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が最も多い集団(中央値2.1g/日)では、最も少ない集団(中央値0.3g/日)と比べて、非致死的冠動脈疾患イベントの発症リスクが67%有意に低下(ハザード比0.33 [95%CI 0.17~ 0.63])、また全冠動脈疾患発症リスクも42%、有意に低下しました(ハザード比0.58[95%CI 0.35~0.97])

【図2】全冠動脈疾患および非致死的冠動脈疾患イベントの発症リスク

23380_fig2.png

(摂取量五分位数での比較、引用文献9より筆者作成)

《補足》データを小さい順に並べて、小さい方から1/5のところのデータを第1五分位数(Q1)、2/5のところのデータを第2五分位数(Q2)、3/5のところのデータを第3五分位数(Q3)、4/5のところのデータを第4五分位数(Q4)と呼びます。本研究では第1五分位摂取量を基準に、各分位数での摂取量と冠動脈疾患リスクが検討されています。

薬の無料アイコン9 (1).pngサプリメントや医薬品としての摂取

 これまで紹介してきた研究結果の解釈において一つ注意が必要なのは、因果か相関かという問題です。“n-3系多価不飽和脂肪酸や魚類の摂取量が多いほど心臓病の発症リスクが少ない”、という知見は、その多くが観察的研究に依存しています。したがって、この関連性が因果関係なのか、ただの相関関係なのか、研究結果の数値のみから判別することは難しいのです。

 どういうことかというと、n-3系多価不飽和脂肪酸や魚類の摂取が多い人は少ない人に比べて、そもそも健康的である可能性があるということです。n-3系多価不飽和脂肪酸や魚類の摂取が多い人はどんな集団なんだろう、と考えてみてください。魚やEPAサプリメントを自らの意志で積極的に摂取している集団では、バランスの良い食習慣を心掛けている可能性が高く、さらには健康診断や予防接種など予防医療を積極的に受けているような健康に関心が高い人たちかもしれませんよね。

 因果関係か相関関係か判別できないというのは、心血管疾患の発症リスク低下をもたらしているのがn-3系多価不飽和脂肪酸摂取によるものなのか、n-3系多価不飽和脂肪酸摂取以外の要因なのか、観察研究の結果からでは判別できないということです。

 実際、観察的研究の結果とは対称的に、医学的介入によりn-3系多価不飽和脂肪酸の有効性を検討した研究では、その有効性はあまり明確ではありません11,12,13)。n-3系多価不飽和脂肪酸の心血管疾患予防に対する有効性を検討した主要なランダム化比較試験と、2018年に報告されたシステマチックレビュー・メタ分析の結果を整理しながら、その有効性について考察してみましょう。

■VITAL試験14)

 VITAL(Vitamin D and Omega-3 Trial)試験は米国における50歳以上の男性、および55歳以上の女性合計2万5,871人を対象に、心血管疾患と発がんに対するn-3系多価不飽和脂肪酸(1日1gの投与量)の有効性(一次予防効果)を検討したランダム化比較試験です。

 中央値で5.3年間にわたる追跡調査の結果、心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、または心血管死亡の複合アウトカム)はn-3系多価不飽和脂肪酸群とプラセボ群で有意な差を認めませんでした(ハザード比は0.92[95%CI 0.80~1.06])。また浸潤がんについても同様に、有意な差は示されませんでした(ハザード比は1.03[95%CI 0.93~1.13])。

 本研究では、心血管疾患リスクがそれほど高くない一般的な集団を被験者として登録しており、このような集団に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の効果は曖昧であることが明確に示されています。

■ASCEND試験15)

 ASCEND(A Study of Cardiovascular Events iN Diabetes)試験は、心血管疾患を経験したことのない糖尿病患者1万5,480例を対象に、n-3系多価不飽和脂肪酸の有効性を検討したランダム化比較試験です。

 平均で7.4年間追跡した結果、脳卒中や心筋梗塞など重篤な血管イベントの発生はn-3系多価不飽和脂肪酸群で8.9%、プラセボ群で9.2%と、両群で有意な差を認めませんでした(発生率比0.97[95%CI 0.87~1.08])。

 本研究の被験者も、糖尿病を合併してはいるものの心血管疾患の既往がない低リスク集団を対象としています。潜在的に心血管疾患の発症リスクが低い患者集団では、n-3系多価不飽和脂肪酸の効果はあまり期待できない可能性があります。

■GISSI-Prevenzione試験16)

 GISSI-Prevenzione試験は心筋梗塞を発症してから3カ月以内の1万1,323人(平均年齢59.3歳)を対象に、n-3系多価不飽和脂肪酸1g/日投与群と、ビタミンE300mg/日投与群、薬剤を投与しない対照群の3群を比較したランダム化比較試験です。

 42カ月後の総死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合エンドポイントはn-3系多価不飽和脂肪酸投与群で12.7%、薬剤投与なしの対照群で14.1%と、n-3系多価不飽和脂肪酸投与群で15%低い(ハザード比0.85[95%CI 0.74~0.98])ことが示されました。

 本研究では、VITAL試験やASCEND試験とは対照的に、リスクの有意な低下が示されています。しかし被験者集団は心筋梗塞発症後間もない患者という、かなりハイリスクな患者です。冒頭のケースの男性客のような、健康診断で中性脂肪が高いと指摘された境界型の人に対して、この研究結果をそのまま当てはめることができるかどうかについては、議論の余地があります。

 また、本研究は非盲検化試験であり、治療の有効性評価においては、プラセボ効果など薬以外の要因の影響を受けやすい研究デザインとなっています。したがって、n-3系多価不飽和脂肪酸が心血管疾患リスクを低下させるという研究結果は、割り引いて考える必要があるでしょう。

■コクラン・システマチックレビュー17)

 n-3系多価不飽和脂肪酸の心血管疾患予防に対する有効性について、2017年4月までに報告されたランダム化比較試験79件(11万2,059例)を対象としたシステマチックレビュー・メタ分析が2018年に報告されています。

 本解析における相対危険度は、総死亡0.98(95%CI 0.90~1.03)、心血管死亡0.95(同0.87~1.03)、心血管イベント0.99(同0.94~1.04)、冠動脈疾患死亡0.93(同0.79~1.09)と、いずれのアウトカムにも有意な差は示されませんでした。

次のページでは、エパデールの試験を解説!

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