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認知症疑いの患者「妻が認知症かも」-どうする?

2019年05月22日 10:00

ハロー薬局薬局長 町田和敏

 当薬局を利用しているEさんが、薬を受け取るたびに「おっかあ(妻のDさん)が認知症かもしれない」と言うようになりました。実はEさんも認知症の疑いがあり、薬局では観察中です。また、Dさんは当薬局を利用していません。

 ここからは、この事例に対して私がどのように行動したかを紹介します。事例をまだみていない方は、一度読んでいただき、どのように行動するか考えてください(関連記事)

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奥さんの服薬状況を確認するためお宅を訪問

 夫であるEさんの相談から始まったDさんへの関わりですが、そもそも何の薬が処方されており、どれくらい飲み忘れているかを把握し、飲み忘れによる生活への影響を評価する必要がありました。

 Eさんが来局された際に、それらを聞きましたが、認知機能の衰えがあるため確認は困難でした。そこで、ご夫妻のお宅に訪問することにしました。

訪問により、さまざまなことが分かりました。

◆処方内容

  • 基幹病院K(内科)
    ・カンデサルタンシレキレチル錠8mg 1錠 1日1回朝食後服用
    ・クロチアゼパム錠5mg 1錠 1日1回夜寝る前服用
  • 診療所M(神経内科)
    ・ドネペジル塩酸塩錠5mg 1錠 1日1回朝食後服用
    ・エルデカルシトールカプセル0.75μg 1Cap 1日1回朝食後服用

◆服薬状況

  • Eさんの言う通り、薬は飲んでおらず余っている
  • Dさんは薬を飲みたくないと感じている
  • ・薬は一包化されたものとPTPヒートのものがある
  • ・薬はPTPシートを1錠ずつ切り離して、市販のお薬ケース(1週間分を入れるもの)に入っている

◆健康状態

  • ・訪問時の測定血圧は164/84

◆認知機能

  • Dさんの会話は同じ内容が多い
  • Eさんも同じ話を何度もする傾向がある
  • ・息子さんは2人おり、隣県に1人(既婚)と釜石市内に1人(未婚)
  • Eさんは、Dさんが何度も同じ話をすることや、Eさんの話を覚えられないことにストレスを抱えていると笑顔で吐露される

◆生活状況

  • ・夫婦ともに、生活上の困難を特に感じていない
  • ・精神的な観点を除き、日常生活を送る上での問題を感じていないため、介護保険サービスの利用はない
  • Dさんは元栄養士で、栄養状態に自信を持っている
  • ・外食で済ますことも多いが、Dさんが食事を作ることもある

 ご夫婦は何度も同じ会話をしてはいるものの、仲睦まじい雰囲気でした。もちろん、2人きりになったときにどうなのかは分かりませんが、少なくとも夫のストレスが痛ましい事件につながりそうな様子は感じませんでした。

 血圧に関しては、日本老年医学会の高齢者の高血圧治療ガイドラインから考えても、治療の必要性を評価しづらい値でした。高齢者は白衣高血圧が出やすいなど、血圧動揺性が大きいという特徴があります。この訪問時に私が測定した値だけで評価し辛い状況でしたが、Dさんは家庭血圧を測定する習慣もなく、また認知症のため、測定習慣をつけるのも難しいと考えられました。もちろん最終的な処方の是非を判断するのは医師なので、医師との情報共有は必要だと認識していました。

ご夫婦の認知機能の衰えを考慮し他科一包化を提案

 Dさん本人は薬を服用したがらない方だったため、薬の飲み過ぎは心配ないだろうと思いましたが、EさんDさんに薬を飲んでもらいたいと考えていました。また、Eさんの認知機能や理解力が低下傾向であることを考えると、薬の整理は必要だと感じました。今後の夫婦の認知機能や理解力の衰えが、PTPシートの誤飲などのできごとにつながる可能性はあるかもしれません。

 そこで、積極的な服用の必要性は少ないものの、PTPシートの誤飲を防ぐために他科一包化をして様子をみてみようと考えました。

 訪問した日に薬をいったん預かり、医師に他科一包化を提案して調剤した後、再度患者さんのお宅へ行きました。

※他科一包化:複数の診療科の薬をまとめて一包化すること

N薬局の薬剤師と同行訪問し今後の対応を検討

 そして、ここからが、今回の事例でお伝えしたかったことです。

 普段、Dさんの処方箋を受け取っているN薬局の薬剤師と連絡を取り、ご夫妻宅に同行訪問したのです。N薬局と当薬局は経営母体が異なりますが、業務外の活動を共にしていたこともあり、顔の見える関係性ができていました。また、N薬局の佐藤薬剤師は1人薬剤師でありながら、在宅訪問をしたりケアマネジャーの資格をとるなど熱心な方でした。ですので、「患者宅の情報を共有するために一緒に訪問して、夫婦の生活や薬剤管理の状況、夫婦の気持ちといった点を確認してみないか」と提案してみたのです。

 会社が違う薬局同士で連携を行なっている地域はあるかもしれませんが、まだまだ一般的とはいえません。会社が異なると、どうしても敵同士のような関係になってしまうのではないでしょうか。地域全体を考えると、薬局間でも連携をすることが、今後ますます必要になってくるだろうと考えています。

 佐藤薬剤師とは「どちらかの薬局でDさんの状態を一括管理した方がよい」との意見が一致しました。夫のEさんが、ほぼ当薬局のかかりつけであったことが決め手となり、ハロー薬局で一括管理をすることになりました。それを患者夫婦も歓迎してくれました。

その後、当薬局でDさんのお薬を一包化し、度々ご自宅を訪問しながら状態を見ていました。服用状況は改善しないまでも、飲み過ぎることはありませんでした。夫婦の生活という点でも最初の訪問時と変化はなく、血圧の変動も落ち着いており、そうした点を医師に情報提供しながらの対応を続けていました。

 いかがでしたか?今回は、他社の薬局同士の連携について考えるきっかけとなればと思い、この事例を紹介しました。次回は、Dさんの夫であるEさんの事例を取り上げたいと思います。

 なお、私のコラムで紹介する事例は、薬物療法以外に関することが多いと感じられるかもしれません。薬物治療への関わりという意味では、諸先輩方がさまざまな媒体で発信しているため、あえて書いていません。私が紹介する行動の多くは、薬剤師というよりは、医療従事者として取るべきものだと思っています。薬物治療への対応に加えて、非薬物治療やケアの視点を持つことが、地域の薬局には強く求められているのではないかと考えております。


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佐藤薬剤師と患者さん宅に同行訪問した際の1枚です。自撮りをしたため、分かりづらいかもしれませんがご容赦ください。佐藤薬剤師とは、後々このコラムで紹介する地域の活動をともに頑張ってきましたが、残念ながら現在は岩手県内の北上市で活動されています。岩手県は四国と同じくらいの広さを誇ります。同じ県内といっても、釜石と北上は75kmほど離れていて車で1時間以上かかる距離です。近所とはいえない場所に行ってしまいましたが、今でもたまに会って話をする仲です。

【連載コンセプト】
私たち薬剤師は、その存在意義について、多くの国民から懐疑的な目で見られています。薬剤師の存在価値とは何なのか、そんなことを考えながら、日々実践している活動の数々を紹介していきます。

また、実際に私自身が経験した事例を紹介し、そのときに考えたことも述べていきます。そして、なるべく読者の皆さんと一緒に考える場所にしたいとの思いから、『皆さんならこの場面でどう考えますか?』と投げかけた上で、次の回に私の行動を紹介するという構成で展開するつもりです。

と、ここまでコンセプトを書きながら、とても陳腐な文章になってしまいそうな予感がしますが、「へぇ、こんなことを考えている薬剤師がいるんだ」くらいの軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。そして、読者の皆さんに何か少しでも感じていただければと思っています。

【プロフィール】

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大学入試4浪、国家試験1浪、と落ちこぼれ街道まっしぐら。昭和薬科大学へ入学し、サッカー部で自称監督として、七面鳥フォークソング部ではVocal&Bassとして、大学生活を謳歌する。卒業後、縁もゆかりもない釜石へ。浪人時代に思い描いた、ドイツに留学し、サッカーの指導者になる夢を叶えるため、保険薬局で働いて留学資金を貯めようと試み、有限会社中田薬局へ就職する。

東日本大震災を経験し、釜石でのさまざまな人々との出会いを経て、「この地域のために薬剤師として、人として、何ができるのか」と考え始めて今に至る。中田薬局・地域包括ケア担当者。ハロー薬局薬局長。ケアカフェかまいし支配人。有志の勉強会・釜石コンテント代表。

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