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「おっかあは、認知症なんでねえかと思うんだな」

2019年05月22日 10:00

ハロー薬局薬局長 町田和敏

 皆さんいかがお過ごしでしょうか。釜石の薬剤師、町田でございます。

 前回は社会的処方を試みた患者さんを紹介しました。地域の活動や資源を知り、患者さんの抱える社会的な問題に対して地域全体で対応することで、薬局の薬剤師はケアの質の向上と健康アウトカムの改善に貢献できるのではないか、との私見を述べました(参考記事:「介護があるから働きたいけど働けない」)。

 前回の事例で私が社会的処方を十分に提供できたかどうかは分かりません。それでも、読者の皆さんに社会的処方を考えるきっかけとしていただければ幸いです。

 薬剤師として患者さんと向き合ったときに、社会的処方の実践や成果にこだわる必要はありません。薬物治療を考えるのはもちろんですが、患者さんの背景に対して非薬物療法も検討しようとする姿勢が大切だと思います。

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 今回は、数年前の事例を紹介します。

 今の自分であれば、別のアプローチをするだろうという事例です。

 そのときに熟慮して取った自分自身の行動でさえ、振り返っていろいろと思うことがあります。よく言われるように、患者さんへの対応に正解などないのだと改めて感じます。正解かどうか分からないと言いつつも今回の事例を紹介する理由は、読み進めていただければご理解いただけると思います。

82歳 Dさん 女性
夫(Eさん 85歳)と二人暮らし
基幹病院と診療所を受診されている
基幹病院では高血圧治療
診療所では認知症治療

 Dさんは、もともと当薬局を利用していませんでした。

 一方で、半ばかかりつけとして当薬局に通っていた夫のEさんが、あるときから、薬を受け取る際にDさんのことを話すようになりました。

「うちのおっかぁ(妻のこと)は認知症なんでねぇかと思うんだな」

「おっかぁと話してると、ほでなくなる(ほでない→釜石の方言で訳がわからないこと)」

「薬を飲めって言うんだけど、飲んでくれない、余っているんでないかな」

 このような相談が何度もありました。

 何度も、と書きましたが、Eさんは同じ内容の相談を繰り返しされていたのです。実は、Eさんも認知機能が低下しているのではないかと、私たちは認識していました。

 Eさんは、認知症の診断は受けておらず、当時は日常生活で困ることはなかったため、私たちも特別な介入をせず、状態を観察していました。

 Eさんの状態は把握しており、認知機能の変化と日常生活への影響を継続的に見ていたものの、奥様であるDさんの話を聞いたときには、さてどうするかと、悩みました。

 ここで、DさんEさんの利用する病院と薬局を整理してみましょう。

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 夫婦の利用している医療機関をみると、病院が5つ(同一病院の他科は分けて数えています)、薬局は3つです。ハロー薬局が私たちの薬局です。

 Dさんの受診の際は、夫のEさんが付き添います。「おっかあは認知症なんでねえか」と相談を受けた当時は、Eさんが車の運転をしていました。同じ基幹病院に通っていますが、DさんEさんの受診する診療科は異なるので、予約日は大抵バラバラです。

 認知症疑いで経過観察中の患者さんから、奥さんが認知症ではないかと相談を受けた今回の事例。皆さんならどのように行動するでしょうか?

 一度考えてから、次のページをお読みいただければ幸いです。

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以前、登場した『なかぴ~』です。釜石のラグピーチーム『釜石シーウェイブス』の非公認マスコットキャラクターです。名前がなぜ『なかぴ~』かというと、私の所属する中田薬局で作成したキャラクターだからです。当社の社長である中田義仁が、釜石シーウェイブスを応援するために私財をなげうってつくりあげました。非公認キャラクターではあるのですが、釜石シーウェイブスの応援だけでなく、今年開催されるラグビーW杯の釜石誘致の際も活躍しました。

【連載コンセプト】
私たち薬剤師は、その存在意義について、多くの国民から懐疑的な目で見られています。薬剤師の存在価値とは何なのか、そんなことを考えながら、日々実践している活動の数々を紹介していきます。

また、実際に私自身が経験した事例を紹介し、そのときに考えたことも述べていきます。そして、なるべく読者の皆さんと一緒に考える場所にしたいとの思いから、『皆さんならこの場面でどう考えますか?』と投げかけた上で、次の回に私の行動を紹介するという構成で展開するつもりです。

と、ここまでコンセプトを書きながら、とても陳腐な文章になってしまいそうな予感がしますが、「へぇ、こんなことを考えている薬剤師がいるんだ」くらいの軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。そして、読者の皆さんに何か少しでも感じていただければと思っています。

【プロフィール】

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大学入試4浪、国家試験1浪、と落ちこぼれ街道まっしぐら。昭和薬科大学へ入学し、サッカー部で自称監督として、七面鳥フォークソング部ではVocal&Bassとして、大学生活を謳歌する。卒業後、縁もゆかりもない釜石へ。浪人時代に思い描いた、ドイツに留学し、サッカーの指導者になる夢を叶えるため、保険薬局で働いて留学資金を貯めようと試み、有限会社中田薬局へ就職する。

東日本大震災を経験し、釜石でのさまざまな人々との出会いを経て、「この地域のために薬剤師として、人として、何ができるのか」と考え始めて今に至る。中田薬局・地域包括ケア担当者。ハロー薬局薬局長。ケアカフェかまいし支配人。有志の勉強会・釜石コンテント代表。

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