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第24回 「ばあちゃん、あと何年生きっつもっか?」

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2019年08月12日 08:00

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おこたの説明会

 冬になると時化の日が多くなります。それに寒い中、住民の皆さんに集まってもらうのもどうかと考え、これまで寒い時期のお薬説明会は控えていました。しかし平成28(2016)年度は予定がずれ込んでしまい、久賀島の説明会は、年が明けての1月29日になってしまいました。一番寒い時期です。なかなか集まらないだろうな~と思いながら、海上タクシーで島まで渡ったら、車をお借りして会場までのドライブです。

 まずは、久賀島の蕨地区というところでの開催です。この会場では以前、1人も集まらなかった苦い経験もあり、毎回、恐る恐る玄関を開けます。するとなんと、部屋にはストーブが焚かれ、こたつまで準備されていました。有り難いです。ただ、寒いこともあり、残念ながら集まったのは3人だけでした。

 今回のテーマは「セルフメディケーションとOTC医薬品について」です。セルフメディケーションの重要性と、市販薬であっても安易に服用すると大変なことになることもありますよ、ということを、実例を挙げながら説明していきます。例えば、風邪薬を服用して、おしっこが出なくなって大変な目にあった人の話やら、カフェインが過剰になった人の話などです。添付文書の見方などについても説明します。商品名を挙げたりすると皆さん身近な薬の話なので、とても興味深く聞いてくれます。

 一番食いつくのは、OTC医薬品の瓶に入っているビニール袋を出した後、どうするかということです。正解を聞くと皆さんだいたいビックリします。そして今回は、東京大学の澤田教授の教室の先生方が作成した「災害時に困らないために~自分でできる“薬の情報”管理~薬剤師もお手伝いします!」という紙芝居を使わせていただきました。

 説明会が終わると今度は相談会です。皆さんお薬手帳を持ってきてくれています。今回は3人だけですので、こたつに入ってじっくりと話ができます。住民の皆さんが少なくても、これはこれで、とても楽しく有意義な時間です。

23923_goto24_warabi.JPGまさしくアットホームな相談会

また水ん実験じゃろ

 午後からは、猪之木地区での開催です。ここは島の中心部にあり、農業が盛んです。皆さん仲が良く協力し合いながらいろんな作物を作っているため、声を掛け合いながら毎年とてもたくさんの方が集まってくれます。ここでもストーブが焚かれ、こたつも準備されていました。

 さあ、始めようかと、紙芝居や実験道具を出しているときのことです。地区の会長さんから「また水ん実験じゃろ。去年もみたよ」と声をかけられました。一同、ドッと受けます。確かに最初の年から、実験をいろいろやってきましたが、お茶と鉄剤の実験、ジュースと重曹の実験、イソジンガーグルの色が消える実験、薬を溶かす実験、薬を混ぜると色が変わる実験など、毎年趣向は変えたものの、だいたいが水を用いた実験です。その他にもカプセルペタペタ実験や、オブラートの上手な使い方でも水を使ってました。

 「え~っ?水ん実験やめる~?」というと、「別にやってもよかばってん」とニコニコしながら言ってくれます。でもこれは来年から少し趣向を変える必要がありそうです。

23923_goto24_waterexperiment.JPG「実験といえば水」が定番化

病気ん話は医者じゃばってん、薬ん話は薬剤師に聞かんば分からんもんね

 いろいろ突っ込みはいただきながらも、説明会は楽しく終了しました。相談会も、たくさんの質問が出ます。皆さんとても熱心です。そして「病気ん話は医者じゃばってん、薬ん話は薬剤師に聞かんばわからんもんね」と声もかけてもらいました。涙が出そうです。

23923_goto24_inokiconsultation.JPG相談会。皆さん熱心に質問してくれます

 相談会が終了したら、みんな集まってるからと、春から使うための肥料などの注文取りが始まりました。

 私も初めての光景なので面白くて、横で一緒に眺めていますと、「おら、そん肥料ば一袋もらおうかね。ジャガイモには、こん肥料がよかっじゃんな~」と、近くにいたばあちゃんが教えてくれます。それを聞いていた取りまとめの人が「じゃばって、ばあちゃん、ざまな量ぞな?」するとばあちゃん「およ~こんだけあったら20年は持っとたい」。

 そこで取りまとめの人が一言「ばあちゃん、あと何年生きっつもっか?」一同、ドッと受けます。このばあちゃんなら、あと20年は軽く生きられそうです。最初、どうなるものかと思いましたが、とても楽しく開催することができました。そして来年は上手いジャガイモにありつけるかもしれません。

 さて、次はどの島に行きましょうか。

五島曳船詩・福江島 石田城

江戸時代の地図を片手に城の周囲を歩いてみるのも悪くない

 五島市の旧福江市街は、実は城下町である。住所や地名、地番まで、以前はお城を中心に作られていた。五島藩の城である石田城は、1863年、日本で最後に建てられた三方向を海に囲まれた海城である。異国船の監視を目的に石田の浜に建てられた。面していた海は、全て埋め立てられてはいるが、今も外堀として残っている部分もあり、その石垣は当時のままである。

23923_goto24_outermort.JPG石田城の外堀

 表門を通ると、二の丸跡には城の形に見立てた資料館などが建てられているが、その裏手には内堀が残っており、水蓮が美しく咲き誇っている。

23923_goto24_waterlotus.JPG内堀の水蓮

 また、蹴出門と呼ばれる裏門は、今も当時の姿で残っている。その橋を渡り石垣沿いに進んでいくと扉があり、県立五島高等学校の看板が掲げられている。その門をくぐり、奥にある内堀に架かる橋を渡ると、本丸跡地に高校の校舎が現れる。

23923_goto24_kickgate.JPG蹴出門

 学生であった当時は普通に通っていた学校も、今思うとなかなか面白い環境である。校舎は、今は現代風のガラス張りのものになっているが、私が通っていたころは校舎にも重い扉があり、油で磨かれた板張りの床に重厚感のある校舎が印象的であった。

 昔、よく冗談で「城の中にあるんだから、戦をしたらうちの学校、強いよな」という者がいた。戦なんかするわけないのだが、今思うと、城の中で戦っている時点で籠城戦である。それで果たして勝てるのであろうか。

 城の周囲は埋め立てられ、大きな武家屋敷はなくなってしまったが、周辺の石垣の多くはそのまま残っている。当時の街並みに思いを馳せ、江戸時代の地図を片手に城の周囲を歩いてみるのも悪くない。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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