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第25回 離島調査研究第5弾スタート

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2019年09月24日 08:00

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気づき

「あれ? あの、いつものばあちゃんの顔が見えんけど?」

 最近、気になることがあります。どの島に行ってもそうなのですが、いつも説明会に来てくれていた人たちの顔が、ひとりひとりと見えなくなってきているのです。長年やっていれば仕方のないことですし、いつもいつも来てくれるわけでもありません。

 そこで、説明会が終わってから周囲の人に尋ねてみました。すると、「長崎にいる子供ん所にひきとられたっじゃんな」とか「体調の悪うなって、本土の病院に入院したっじゃんな」「一人で住まわれんようになったけん、福江の施設に入ったごちゃっ」と、今は島にはいないという話が多いのです。

 しかし、「足ん痛かけん、ここまで歩いて来られんもんな~」とか「1時間、じっと座っておられんけん、行かえんよ。って言いよったよ」という話も多くなってきました。

 ならばと家に誘いに行くと「目も見えんし、耳も聞こえんけん。行ったっち、なんば話しちょっかわからんもんね~」とのこと。なるほどです。これはもしかすると、本当に薬の話や、整理が必要な人たちって、会場には来られないような人たちが多いのかもしれません。

24206_goto25_briefing.png説明会の準備。本当に薬のことで困っている人は足を運べないのかもしれない

新たな調査研究の始まり

 さて、どうしたものか。そこで先日、医師の依頼で訪問した事例がヒントになりました。

 医師や、その他の医療関係者、介護の職員の方たちに紹介してもらったり、近所の人から見て薬の管理や服薬ができているかどうか不安と思われる方のところを訪ねて回ったらどうなるんだろう。ついでに、知り合いになった人のところも訪ね歩きながら。これはなかなか面白くなりそうです。

 私たちはこれまで、ランダムに選択したお宅にアンケート用紙を送付して回答したものを返送してもらう大規模アンケート調査を皮切りに、五島市内の二次離島のお宅を一軒一軒回って医薬品の使用実態を対面で直接お伺いするアンケート調査、「お薬説明会・相談会」を継続して開催することによって薬剤師に対する意識に変化がみられるかの調査、そして第四弾として、二次離島の人たちの薬の相談にリアルタイムで電話にて応じる「かかりつけ薬剤師定着事業」とさまざまな調査研究を行ってきました。

 今回の調査は、一連の二次離島調査の第五弾と位置付けて行うことにしました。まずは、島の町内会長さんや医療関係者に連絡をしてどなたか紹介をしてもらいます。そして薬の内容や服薬状況などを確認する中で、当然、医師にも問い合わせや確認、処方の見直しをお願いすることが出てくる可能性もありますので、医師会を通じて各医療機関にもお願いすることにしました。

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島の道路

まずは一歩

 そして、いざ、始める事になりました。知らないおうちなので住所と地図を頼りに足を運ぶしかありません。最近は表札が出ていない家も多いです。

 まず最初は、医療関係者からの紹介の方です。糖尿病の方で、しばらく来院されていないので心配だとのことでした。長年こんなことをやっているので、こちらも慣れているはずなんですが、なんとなく緊張します。ドキドキしながら扉を開けて「こんにちは~」。

 すると「は~い、ちょっとマッチョって」と声がします。そしてトイレの流れる音がしたと思うと、横の扉から女性が出てこられました。「どなたさん?」まるで不審者です。「すみません。福江から来ました。薬剤師の平山といいます。もう少ししたら、そこの住民センターで『お薬説明会・相談会』を開催するので、よろしかったら参加してください。ところで、こちら〇〇さんのお宅で間違いないですか?」とお尋ねすると「そら、隣」。

 なるほど、同じ棟で玄関が二つあります。今度は間違いがないはずです。自信をもって扉を開け「こんにちは~」と声をかけてみると、奥からのそのそと男性が現れました。「だっか」。

 私は事情を話してから、薬は飲んでいるのか、薬は残っているのか、通院はしないのかなど聞いていきます。すると、「薬はとっくになくなっている。薬は飲んでない。別に死んでもよか」。

 私は、「みんなも心配してますから。早めに受診してくださいね」ーーとっさにそう言うことしかできませんでした。その方は別れ際に「わかった」と答えてはくれましたが、そのあと確認しても受診はされていませんでした。死んでもいいと思っている人に薬を飲んでもらおうと思ったら、どうすればいいんだろう。どう話せばいいんだろう。大きな課題ができました。

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島のおばあちゃん

 さて、次はどの島に行きましょうか。

五島曳船詩・久賀島 キリシタン墓地

ここには心優しき人びとが住み、そして眠っている。

 久賀島へ行き、道路の脇の苔むした坂道をゆっくり上がっていくと、草木に囲まれ、その合間から光差す特別な空間が広がっていた。中心には大きな十字架が配置され、その周辺には十字を刻んだ棺桶の形のお墓が並んでいる。大きなものから小ぶりのものまで。子供のものであろうか、とても小さなものまである。中には、丸い石を積み上げただけのものもある。

24206_goto25_cross.png十字架

 しばらく佇んでいると、さまざまな思いが溢れてくる。

24206_goto25_coffin.png棺桶の形をしたお墓

 もう一カ所、五輪教会の脇から石垣に誘われて椿の花がこぼれる坂道を一番高いところまで上ってみた。足元を見ながら進まないと滑りそうな土の坂道である。

 やっと着いたと頭を上げると、そこには光に包まれた素晴らしい光景が現れた。石積みにより一段高い場所には、先ほどの墓地と同様に、周囲を慈しむかの如く大きな十字架が静かに佇んでいる。藪の間からは五輪教会を見下ろすことができた。五輪教会に守られ、そして五輪教会に集う信者でもある子供たちを見守るようでもある。優しい光に包まれたその空間は、まるでパライゾそのもののようであった。

24206_goto25_entrance.png優しい光に包まれる墓地

 墓地から教会の方を見下ろしていると、少し下の段に仏教徒の墓らしきものがある。聞くとその昔、港に流れ着いた名もなき遺体があり、きっと仏教徒であろうと仏式の墓をつくって埋葬したそうである。ここには心優しき人びとが住み、そして眠っている。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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