新規登録

胃腸薬~胃の調子が悪いのですが、どんな胃薬がイイですか?- 前編

医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一

2019年09月27日 17:00

 患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。

薬の無料アイコン9.png今回のお話「胃の調子が悪いのですが、どんな胃薬がイイですか?」

  • 上部消化症状の有症割合とその特徴
  • 上部消化管症状の病態生理学的背景
  • OTCで対応可能な状況を判断する
  • 市販購入できる主な胃腸薬
  • 治療薬の基本的な選び方
  • 結局のところどうしますか?

薬の無料アイコン9.png今回出てくるOTCは・・・

ガスター10(第一三共ヘルスケア)/アシノンZ錠(ゼリア新薬)/イノセアワンブロック(佐藤製薬)/ガストール錠(エスエス製薬)/スクラート胃腸薬錠(ライオン)/スクラート胃腸薬顆粒(ライオン)/スクラート胃腸薬S錠(ライオン)/スクラート胃腸薬S散剤(ライオン)/セルベール整胃薬(エーザイ)/新セルベール整胃薬(エーザイ)/パンシロンキュアSP(ロート製薬)/アバロン(大正製薬)/イノセアバランス(佐藤製薬)/新プロストマック(日邦薬品工業)/サクロン錠(エーザイ)/太田胃散(太田胃散)/キャベジンコーワα(興和)/パンシロンAZ(ロート製薬)/イーグロン(ユニテックメディカル)


 昨日、深夜までお酒を飲んでいたせいか、胃がもたれている薬剤師のあなた。薬歴記載業務が一段落したところで調剤室を抜け出し、二日酔いに効きそうな漢方薬を探しに市販薬の陳列棚へ向かいます。ちょうどそのとき、後ろから声をかけられ振り向くと40歳代とおぼしき男性が立っていました。

「すみません、なんだか胃の調子が悪いんですが、よく効く薬はどれですか?」

(僕もです……)と答えそうになるのをこらえ、平静を装いながらお客さんの状況を確認します。

「どんな症状ですか? 痛みはありますか? それとも胃がもたれる……、あるいは胃酸が逆流するような症状ですか?」

「う~ん、微妙ですが全部……ですかね」

「いつから症状が出ていますか? 特に症状が強いのは1日の中でもいつごろですか?」

「たまにあるんです、こういう症状。症状が出る明確なタイミングはないんですけど、午前中に気になりますかね。午後はあまり印象に残っていないですね……」

 午前中に気になる胃の症状……って何? と頭が真っ白になってしまったあなた。とりあえず、黒色便など消化管出血を示唆する症状や嘔気・嘔吐、発熱がないことを確認すると、胃腸薬が並ぶ棚へお客さんを案内しました。

薬の無料アイコン9 (1).png上部消化症状の有症割合とその特徴

 今回は、上部消化管(口腔、食道、胃、十二指腸)症状を訴えるお客さんへの対応事例です。なお下部消化管(小腸、大腸、肛門)症状に関しては、便秘とその対応を過去の記事で取り上げています(便秘薬~うんちの調子が悪いんですけど、どんな薬がイイですか?)。

 上部消化管疾患として、まず思い浮かぶのは消化性潰瘍でしょう。主な症状として、腹痛、心窩部痛、逆流症状、消化管出血、嘔気、嘔吐などが挙げられます1)。とはいえ、非特異的な症状や無症状で経過することも多く、内視鏡などの検査を行わずに症状だけで潰瘍と診断することは容易ではありません。実際、60歳以上の消化性潰瘍患者では、腹痛や心窩部痛の頻度が若年層に比べて低く、心窩部痛の症状は3割程度であることが報告されています1)。他方で、出血の頻度は若年者と比べて高齢者で高く、無症状の状態から急に吐血(出血性潰瘍)するなどして緊急受診となるケースも少なくありません【表1】。

【表1】消化性潰瘍の症状とその有症割合

OTC胃腸薬表1.png

(参考文献1より筆者作成)

 このような状況の下、OTC胃腸薬を買い求めに来る人の背景や特徴を知っておくことは、現場での臨床判断の助けとなることでしょう。

 例えば、オランダにおける薬局12軒、ドラックストア4軒を対象にした横断調査2)によると、主なOTC胃腸薬の購入動機は胸焼け症状であることが報告されています。この研究では回答者82例のうち71例(87%)で、プライマリケア医を受診する代わりにOTC胃腸薬で対応していました。その理由として、「現在の症状が医療機関を受診するほど深刻なものではない」との回答が一般的であったと報告されています。他方で、医療機関を受診する傾向が認められたのは、併存疾患を有する人、上部消化管疾患の既往がある人、医師による胃腸薬の処方を受けた経験がある人、嘔吐や疼痛などの警告症状がある人、症状が週に4日を超えて現れている人でした。

 また、ベルギーの63軒の薬局で行われた研究3)(解析対象18〜82歳の592例)によれば、上部消化管症状に対してセルフメディケーションを考えていた人は、逆流症状(53.2%)、食後の膨満感(51.2%)、胸部の不快感(49.2%)の症状を有する頻度が高いという結果でした。この研究では被験者の21%に対し医療機関の受診を推奨していますが、そのうち医師の診察を受けたのは51.7%にとどまりました。

 つまり、OTC胃腸薬を買い求めに来る人は、医療機関を受診するほどではないと考えられるような比較的軽度な胸焼け、逆流、膨満感といった症状を有する可能性が高いといえます。とはいえ、オランダやベルギーでは強力な胃酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬がOTC医薬品として発売されており、日本とは事情がやや異なるかもしれません。

 日本人における胃腸症状の有症状況はどうなのでしょうか。日本人3,477例を対象に1カ月間の追跡調査を行った前向きコホート研究4)では、胃腸症状の発生率は25%(およそ4例に1例で発生)で、症状が現れた回数は1例当たり平均0.66回でした【表2】。頻度の高かった症状は腹痛、下痢、吐き気、便秘および消化不良で、これらの症状のリスクファクターは女性、若年、生活の質が低い人であったと報告されています。また、この研究では、嘔吐を除く胃腸症状が出た場合、医療機関を受診して医師の診察を受けるよりも、食事療法や代替補完療法などを利用する割合が多かったとも報告されています。やはり軽度の症状であれば、医療機関を受診する前に市販のOTC医薬品で様子を見ようと考える人は多いのでしょう。

【表2】胃腸症状の発生率とエピソード数

2OTC胃腸薬表.png

(参考文献4より筆者作成)

 上部消化管に限っても、その臨床症状は軽微なものから重度なものまで多様です。ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori:以下H. pylori)感染のない医学部生298人(男性163人[平均23.7歳]、女性135人[平均23.1歳])を対象にしたアンケート5)では、逆流症状胸焼け胃の膨満感食後の胃もたれなどの頻度が高く、やはり女性で多い傾向が示されています【表3】。

【表3】男女別に見た上部消化管症状の頻度

3OTC胃腸薬表.png

(参考文献5より筆者作成)

薬の無料アイコン9 (1).png上部消化管症状の病態生理学的背景

 上部消化管症状をもたらす病態の1つに、慢性胃炎やそれに伴う萎縮性胃炎があります。わが国における萎縮性胃炎の有病者数は世界的に見ても多く6, 7)、一般的に加齢とともに有病者も増加します8)。その原因として、飲酒、コーヒー、喫煙、ストレス、加齢に伴う生理的変化があげられますが、近年では、H.pylori感染が主要なリスクファクターだと考えられています9, 10)。日本におけるH. pylori感染者は、衛生環境の改善などから近年、減少傾向にありますが、加齢とともに感染者も増加します11)

 また、萎縮性胃炎は多様な上部消化管症状の原因となるとともに、胃がんの強いリスクファクターであることが知られています12)H. pylori除菌療法で胃がんの発生や死亡のリスクを低減できるかどうかについては議論の余地がありますが13, 14)、十二指腸潰瘍の発症リスクを8割、胃潰瘍の発症リスクを7割、低下させる効果が期待できます15)

薬の無料アイコン9 (1).pngOTCで対応可能な状況を判断する

 これまで見てきたように、胃の調子が悪いといったような消化器症状の背景には多様な病態があり、OTC医薬品で対応できるのか、医療機関で精査が必要なのか、その判断に悩むケースも少なくないでしょう。夜間痛や食事をすると楽になる上部消化管症状は、胃酸過多による胃炎、あるいは消化性潰瘍の可能性が高く、軽度であればOTC医薬品で対応が可能なケースもあります。

 しかし、急激に発症した激しい腹痛などでは、速やかな医療機関受診が勧められます(急性腹症)。また再燃・再発を繰り返す上部消化管症状や、胃がんの家族歴がある人では、H. pylori感染の有無を確認した上で、感染が明らかな場合にはH. pyloriの除菌を考慮します。OTC医薬品で対応できる上部消化管症状なのかを判断する上で、消化器系疾患の診療ガイドラインは大変参考になります。

診療ガイドラインを全て読み込むのは大変な作業ですが、上部消化管症状を訴えるお客さん(患者さん)の緊急度を判断できるよう、少なくとも以下の項目には目を通しておきましょう。

  • ☑ 突然発症で30分以上持続する腹痛ではないか?(大動脈解離などの血管病変の可能性)
  • ☑ 歩くと響くような腹痛はないか?(腹膜炎の可能性)
  • ☑ 1時間以上、持続的に続く腹痛ではないか?(内臓障害の可能性)
  • ☑ 嘔吐物に血液や黒い物が混じっていないか?(消化管出血の可能性)
  • ☑ 頭痛、発熱があり下痢を伴わない嘔吐・嘔気か?(髄膜炎の可能性→頭痛薬も参照)
  • ☑ 食事や水分摂取ができていない状態が続いているか?(輸液が必要なケースもある)
  • ☑ 背中に抜ける痛みがあるか?(膵炎の可能性。飲酒習慣なども確認を!)
  • ☑ NSAIDsの使用はないか?(消化性潰瘍の二大原因はNSAIDs使用とH. pylori感染16 ,17)

 前記の項目に該当しない上部消化管症状は、短期的な使用に限りOTC医薬品で対応可能なケースが多いと思います。しかし、消化器系症状の治療目的は食道粘膜障害などの合併症予防、そして消化器系のがん発症を防ぐことにあります。消化管の症状を抑えたことで重大な疾患がマスクされ、適切な治療の機会を逃してしまう可能性に注意しなければなりません。特に高齢者では、H. pylori感染者や慢性胃炎、萎縮性胃炎の有病者が多いことから、現病歴や既往歴を確認し、慎重な対応が望まれます【図1】。

【図1】上部消化管症状の疫学、病態生理学的背景とOTC医薬品での対応可否

24190_fig1.png

(筆者作成)

次のページでは、市販されている胃腸薬を比較!

1 2
トップに戻る