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第26回 お薬手帳2冊持ってるの?

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2019年10月29日 15:00

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転倒を繰り返す独居のおじいちゃん

 椛島の介護関係の方から、独居の高齢者に関する相談がありました。薬を飲みすぎたりするみたいで、よく転倒する。血圧を測ると、とても低くなっていることかあるとのことでした。

 お名前だけを伺ったので、検索して地図を頼りに自宅へ行ってみます。自己紹介をして事情を説明して薬を見せていただきますが、薬がいろんなところへ散乱していますので、大変そうです。一応、整理はしたものの、一時しのぎにしかなりません、一度家族の方に相談した方がよいのではないかということになりました。

 そして次の機会にまた訪ねていきますと、息子さんが帰って来られていました。自己紹介をして訪問した経緯など事情を説明します。すると「確かに薬を飲むところを見ていると、大量の薬を手のひらに全部乗っけて、勢いよく“バッ”と口に放り込むようにして飲んでいるから、口にうまいこと入らなかった薬は、その辺に飛び散っている」とのこと。

「気が付いたら拾って飲んでいるみたいだけど、掃除をしていると薬がたくさん転がっているもんな~、自分がいる間は注意しているからいいけど、ひとりになったら難しいかもな~、飲み間違いも結構あるんだろうな~」とのことでした。

 そのときはそれでお別れをしましたが、この方はその後、施設に入られたとのことでした。島には独居老人がとても多くて、いろいろと考えさせられます。

Ifuki_town_w500.jpg椛島・伊福貴の町並み

夕食後のポケットにはランソプラゾール、朝食後のポケットにはタケキャブ

 さて、お薬説明会までにはまだ少し時間があるので、以前、私の薬局へ処方箋を持ってきてくれていたおじさんの家を訪ねてみることにします。

「こんちは~」奥から奥さんが出てきます。「だっか」。おじさんは顔見知りなのですが、奥さんにはあったことがありません。とりあえず自己紹介をしていると、おじさんが顔を出してくれました。「よかったら入らんかな?」勧められるまま奥の部屋に入っていきますと、四畳半くらいの部屋に、テレビと卓袱台とベッド。すべてがそこで賄えるようになっています。

 お茶を出してもらいながら、「せっかくだから薬ば見せて」と話をすると、薬が入ったケースがすぐそばから出てきました。意外といっては失礼ですが、なかなかきれいに整頓されています。

 すると、夕食後のポケットの中にランソプラゾールが、朝食後のポケットの中にもタケキャブが入ってます。「おじさん、これ何?」「胸の焼くっとたい」「ふ~ん、でも同じような薬が2つ入っとるね~お薬手帳ある?」すると、これもまたすぐそばから、お薬手帳が2冊。

「うん?なんで2冊?別々に作ってると?」すると「最近、湿布ば70枚ずつしか出してくれんじゃろ?じゃっけん別々のところでもらいよっと。お薬手帳ば1冊にしちょったら、湿布はよその病院でもらいよっけんて言うて出してくれんじゃろな」

 なるほど、賢いです...って言うてる場合じゃありません。「でも、湿布の貼りすぎでトラブルの可能性があることはとりあえず置いといて、同じような薬を2つ出されているし、このままだと飲み合わせなんかも見過ごされるかもしれんけん。やめた方がよかって思うよ。せめて薬局は1か所にするとかさ~」というと、「足の悪かけん、いろいろ行かえんけん。行った先の病院の近くの薬局に行くもんな~」とのこと。

 そこで、薬の重複や相互作用のことなどをいろいろ説明して、本人の了解を得た上で、ランソプラゾールが記載されている手帳には「他の医療機関でタケキャブが処方されているようです。調整をお願いします」、そしてタケキャブが記載されている手帳には、その逆を記載して、今度受診するときには手帳を見せていただき、手帳もどちらかの薬局で1冊にまとめてもらうように説明しました。

lecture_w500.jpg椛島でのお薬説明会・相談会

あんた、電話ば見てくれんね

 すると、そんな作業を横で見ていた奥さんが「あんた電話ば見てくれんね。こん前ん台風の時から電話の変なか。雷も鳴りよったけん。携帯電話もあるけん困りはせんとやけど。不便なこともある」とのこと。そこで、いろいろ試してみるとやはり故障しているようでした。

 そこで「電話機ば、どこからか借りてきて、それば繋げて通じれば電話機が故障。そんときは電話機ば買うてこんばたい。それでもだめなら線のだめになっちょっけん、そんときはNTTに連絡せんばやろね」と説明して家を出ました。

 歩いて回っているといろいろあるものです。でもなかなか楽しくなってきました。次回も椛島をもうちょっと“さるいて”みましょうか。

kabashima_road_w500.jpg椛島の町中

五島曳船詩・福江島 常灯鼻

常灯鼻には今もなお、見えない灯でこの島と島の住民を見守り続けている。

 福江港の防波堤に入ると、真っ先に目に飛び込んでくるものがある。常灯鼻である。常灯鼻は、幕末の石田城建築の際、北東からの強い波を遮り築城を容易にするため、築城に当たった石工たちの手によって造られたとされている。

Johtoubana2_w500.jpg美しい石垣に建つ常灯鼻

 幼いころ、この付近で育ってきた私にとっては大切な遊び場の一つでもあった。腕白坊主であった幼馴染は、この常灯鼻へ通じる防波堤からふざけて海に飛び込み、母親から拳骨をもらっているのをよく目にしたものである。

 常灯鼻は、今では現在の防波堤の内側にあり大きな波を受けるということはなくなったものの、それまでは、まともに外海からの波を受け止めていたのであるから、現在まで変わらぬ姿でいられるのには驚くばかりである。そして当時の城の石垣を作った職人たちの手のものであるからこそ、その造りは強く美しい。

 また、常灯鼻というだけあって、以前は港の灯台の役割も担っていたらしい。この辺りは昔からの漁師町であり、今でも多くの漁船が停泊している。当時、真っ暗な海に出ていく漁師たちにとっては大切な明かりでもあったろう。現在は灯が灯ることもないが、今もなお大切な道標となっているに違いない。

Johtoubana1_w500.jpg見えない灯で島を見守る常灯鼻

 今日もまた、暗いうちから常灯鼻の先から沖に行く船が出ていく。常灯鼻は今もなお、見えない灯でこの島と島の住民を見守り続けている。そして島を離れて前に進む者の、そして島へ帰る者のための道標となっている。だからこそ島を離れるとき、ふと目をあげると当たり前のようにいつもそこに佇んでいるのである。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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