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第27回 「おばさん、これ飲んだ方がいいよ」

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2019年12月10日 11:00

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台風の後始末

 今回も前回の続きです。五島の島の人たちは、昔から台風が多いので対処の仕方は慣れている人が多いです。ただ最近の台風は威力が強く、島の建物も老朽化した上に、住んでいる人たちも少なくなってきています。住む人がいなくなった家を解体したため風当たりが強くなり、台風の影響も以前よりもかなり大きくなってきているようです。

 お世話になっている地区の郷長さんに話を聞くと、台風で瓦が飛ばされたりしたときに、すぐに瓦の吹き替えができるようにと、多くの家では、軒下に予備の瓦を置いているそうです。ここは二次離島なので、すぐに準備ができませんから昔からの知恵なのでしょう。ただ、「若い人がいないので自分たちでやらなきゃいかんから大変だ」とのことでした。

 私も相変わらず島の中を歩き回っているので、なんだか台風後の視察のようです。そんな時、畑で鋸を持っているおばさんに出くわしました。

「なんばしよっと?」「台風で木の枯れたけん切りよっと」。

 でも、おばさんの立ち姿は背中も曲がって杖をついています。

「おばさん、それ、俺がすっけん」「そがん、よかよな~」ひとしきりそんなやり取りをした後、無理やりのこぎりを取り上げます。「どこばどう切ればよかか教えて」そしたら...と言って指示された枝を切り始めたら結構な量です。しかも生木なので、結構大変です。でもここで引くわけにもいきません。

 やっと終わったと思ったら、「そしたら次はこの木」。

 あれま、これだけじゃなかったのね。説明会前に結構な汗をかいてしまいました。でもこのおばさん、私たちがお昼ご飯を食べていたら、いつも自分が釣った鰺で作った天ぷらなどを差し入れしてくれるのです。持ちつ持たれつです。その間にいろいろ話を聞いていると、やはり台風の影響は強かったらしく「隣の家は炊事場が壊れて、ご飯の作れんけんて福江の子供ん所に行ってしもうた」とのことです。大変です。

goto27_counseling_w500.jpgお薬相談会の風景

そん薬は飲んだ方がよかよ

 いい汗をかいた後は次の現場に向かいます。今度は、以前私の薬局へ来られていたご夫婦の家です。処方箋を持ってきてくれていたご主人が亡くなられてからは、奥さんは島の診療所へ行っているので、島に行った時だけしか会うことはありません。毎回、線香だけはあげさせていただくためにご自宅へ伺います。でも逆にいろんな手土産をもらうので、仏壇に手を合わせに行っているのか、モノをもらいに行っているのかわからないくらいです。

 その代わりと言っては何なのですが、必ず薬の確認をさせてもらうようにしています。今回も、一つ一つ確認します。いくつか薬を飲んでいるのですが、「それぞれ何の薬か分からない」といいます。私は、一つ一つ説明していきます。

 アムロジピン、エディロール、バイアスピリン、アズレングルタミン細粒。

 胃薬はこれだけか~?と思いつつ「胃の調子とか大丈夫?胃ば悪くせんごと、薬はご飯ば食べたらすぐに多めの水で飲んでね」と話をして、「そしたら説明会の会場で待っちょっけん来てね」と話をして帰ろうとしたときのこと。

「そういえば、こん前診療所から帰ってきた後に、看護師さんが、これも飲んでと持ってきたっじゃばって、何の薬かわからんけん飲んじょらんと」と出してくれたのが『ファモチジンD』。あった。

「あ~これこれ、おばさんこれ飲んじょった方がよかよ~」「薬の多かけんね~。あんまり飲みたくないもんね~」。

 そこで、改めてバイアスピリンの説明と副作用のこと、そしてファモチジンを服用する必要性などを説明して無事に飲んでもらうことに承知してもらいました。一安心です。

 さて、これから説明会です。皆さん座るのも大変で、目も見えないですし、耳も聞こえないとは言いながらも「あたしだ、人数合わせじゃけん。あんたが折角来たんじゃけん、おらんよりは、なんもできんでも座っちょっだけでもよかろ」とのことです。ありがたい。皆さんの好意で続けさせていただいている説明会です。今日も楽しくできました。さて次はどの島に行きましょうか。

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人数合わせと言いつつ参加してくださる皆さん

五島曳船詩・久賀島 五輪教会

この教会を訪れるときには限りなく少人数で静かに佇む方がいいらしい

 久賀島の五輪集落には、二つの教会が並んで建っている。一つは1881年に久賀島の浜脇に建てられていた教会を1985年にこの地へ移設した旧五輪教会。そしてもう一つは地域の方たちが常にお祈りをするために建てられた新しい五輪教会である。

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旧五輪教会の外観

 五輪の集落は久賀島の東の入り江にあり、現在も車の乗り入れはできない。入り江には港があるため船で行くという方法があるが、陸から行く二つのルートもある。一つは集落の間を通って細い山道をうねうねと車で行って駐車場まで行き、そこから山を下りて海沿いのルートを歩くもの。もう一つは久賀島の中心にある大きな集落から山を徒歩で越えていくルートである。

 どの道を選択するかは人それぞれであるが、どれもそれほど簡単ではない。苦労をしてその地へ降り立ち周囲を見渡すと、当時の人々の暮らしの大変さと、信仰への強い思いがひしひしと感じ取れる。

 旧五輪教会の外観は、一見、木造の民家のような作りになっているが、中へ入るとアーチ状の天井が空間を構成し、正面にはキリストを抱いた聖ヨゼフ像が、明り取りの窓から注がれる優しい光に包まれた姿が飛び込んでくる。柱は信徒たちの手によって、より良い木材であるかのように装飾が施され、入り口にはステンドグラス風にガラスの色を付けた飾り窓がはめこまれている。

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教会の内部

 そして海と山に面した窓ガラスは微妙にうねったままのもので、そのガラスを通して見える海や自然の景色は教会堂の中の古い木の香りと、うねった形状のガラスから差し込む優しい光の中で、まるで時が戻ったかのような錯覚を思わせる。

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教会の窓

 ぜひ教会堂の真ん中に立ち、ゆったりとした時の流れを味わってほしい。そのためにも、この教会を訪れるときには限りなく少人数で静かに佇む方がいいらしい。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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