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第28回 内臓エプロンと紙芝居で解説!「うんちの話」

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2020年01月31日 15:20

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今シーズンのテーマは「うんち」

 人はなぜか「うんち」という言葉に過剰反応します。小さな子どもなんか「うんち」というだけでコロコロと転がるように笑います。と言うわけで今シーズンのテーマは「うんちの話」です。内容は便秘や下痢の症状や食事の方法、そしてその治療薬や相互作用。薬の副作用による便秘や下痢についてなどです。

 また、今回は紙芝居は使うものの、主に実演形式で、お互いの顔を見ながらの説明会を目指します。そして食べ物が「うんち」になるまでの身体の中での長い旅路を実際に身体で表現できるようにしようと考え、内臓の絵が描いてあるようなTシャツとかないものかと探してみると、なんと、取り外しが可能な内臓を模写したエプロンが見つかりました。これは今後も役に立ちそうです。

24886_goto28_lectue.jpg内臓エプロン装着、紙芝居で解説

実演形式の説明会

 第1回目のお披露目は黄島です。とりあえず内臓エプロンを着けるだけで笑いが取れますが、初めての手法なので、私の話し方もなんとなくうろうろしてしまいます。が、そこは皆さん長い付き合いです。合間にツッコミを入れてくれるので助かります。

 最後に便秘のときのマッサージの方法や体操を一緒に実演します。そのときにも内臓エプロンは重宝します。「このへんを押さえて」とか「この辺りをマッサージして」とか、内臓の形が見えていると分かりやすいようです。

 以前、ご指導をいただいている澤田先生からも、一方的な説明会にならないようにというご指摘もありましたので、説明会の1つの方法としてはよさそうです。これから1年間回るうちには、もっとよい方法も見つかるでしょう。

24886_goto28_massage.jpg便秘解消のマッサージを説明

前立腺肥大にスピリーバ?

 説明会が終わると、次は薬剤師介入の調査研究です。今回は町内会長さんの案内で、COPDのためになかなか外に出られない方のお宅へお邪魔させていただくことになりました。

 家に入ると、狭い部屋の中にタバコの煙が揺らいでいます。「このままタバコをやめられないと、酸素を吸わなきゃなんなくなるかもしれないから、早めにやめたほうがいいですよ」とお願いして、薬の確認。

 咳止めや去痰剤の他に、タムスロシンがあります。「これだけですか?」と尋ねると、「これもある。福江の薬局に行くと薬をまとめてくれるから助かる」と言って出してくれた薬は一包化されていました。その中身を確認すると、島の診療所で出されている咳止め薬と同じものが入っています。「これ、診療所で出されているのと同じ薬が入っているから、一緒には飲まないで」と説明します。

「他にはないですか?」と尋ねると、「こんなのもある」と出してくれたのがスピリーバレスピマット。前立腺肥大の方には禁忌です。おしっこの様子を聞くと、トイレに行ってもチョロチョロと少ししか出ないとのこと。民生委員さんの話では、明日には看護師さんが、3日後には診療所の医師も来られるとのことでしたので、医師へのメッセージを書きました。必ず医師に渡すようにお願いをして、看護師さんにも早めにその旨伝えていただくよう、民生委員さんにもお願いしました。

 そして翌日、五島市の担当課長さんにも連絡を取ると、自分が診療所の医師と看護師に連絡を取ってくださるとのことでしたので、COPDに使用できる吸入薬の一覧表を作成し、処方提案をしたものを添付して、医師に情報提供していただくことになりました。よい方向に話が進むとよいのですが。

えっ?ばあちゃんいないの?

 黄島での用事がひと通り終わり、黒島に行かなきゃと思ったときに、重大なことを忘れていました。いつも説明会の前日には、協力依頼の電話を入れることにしていたのですが、黒島への連絡を失念していたのです。

 黒島は、おばあちゃんと娘さんの2人だけの島です。行ってみて留守だったら目も当てられません。そこで、急いで電話をしてみました。すると娘さんが電話に出られて「あ〜、今日だったのですね。でも、お母さんはいませんけど」とのこと。聞くと、一週間くらい前に本土から帰省した息子さんについて行ったというのです。でも、だからといって行かないわけにはいきません。黒島へ着いたら、娘さんの体調を伺いながら血圧などを測定して、服薬状況を確認して帰ることにしました。

 今回は、いつも岸壁まで一緒に来て、見えなくなるまで見送ってくれるばあちゃんの姿はないんだな〜、と思っていますと、ばあちゃんの家の白猫が岸壁までついてきて、船が見えなくなるまで、岸壁でずっと見送ってくれました。おばあちゃんの代わりなのでしょうか。

24886_goto28_cat.jpgばあちゃんの代わりに見送ってくれた白猫

 黒島はとうとう、たった1人と猫だけの島になってしまいました。また来年。そのときには、また元気なばあちゃんとも会えるといいなと祈りつつ、私たちは猫に向かって、ずっと手を振り続けました。

 さて次は、どの島へ行きましょうか。

五島曳船詩・福江島 白鳥神社

白鳥の舞い降りたる社の周囲には、強く生きてきた者たちの命の証が確かにあった

 福江から玉之浦へと向かう旧道から脇道へ入り、狭い山道を海まで下った先に白鳥神社はある。平成20年頃、時の総理大臣が五島を訪れた際に、五島に総理大臣が来るなんて初めてではないかと、それは大騒ぎになった。そのとき、伊藤博文公が白鳥神社に来たことがあるらしいと話題になった。

 創建は大宝2年(702年)、五島では2番目に古い神社である。日本武尊を祭神として社を建てた後、一羽の白鳥が舞い降り、「我は神の化身なり」と告げたとされていることから「白鳥神社」と尊称することになったと由緒書きにある。

 五島はお大師信仰が根強く弘法大師空海の伝説が数多く残るが、ここには伝教大使最澄の伝説が残っている。遣唐使として唐へ渡る際に航海の安全を祈願し、帰路にも無事帰国できたお礼として十一面観音像を安置したという。

24886_goto28_sea.jpg神社の前に広がる海

 現在は神社の入り口まで車で入れるが、今回は旧道脇に車を止めて歩いてみることにした。木々の合間からやさしい光が差す山道に鳥の声が響き、なんとも気持ちがいい。

 当時は海からの参詣が主だったのか、波ひとつない静かな入江から海岸線に建てられた鳥居をくぐり、まっすぐ伸びた階段が美しい。手水場は石で囲われており水音が心地よく響く。手を清め、そっと口に含んでみる。海のそばなのに全く塩気を感じない。

24886_goto28_stairs.jpg神社から海に続く階段

 静かに階段を登ると清潔に保たれた社が山の冷気に清々しく、地元の人たちに大切に守られてきたことがうかがい知れる。

24886_goto28_shrine.jpg白鳥神社

 ひと通り周囲を散策したら、白鳥神社を後にしてゆっくりと山道を戻ることにする。すると木々の隙間にはいくつもの石積があり、小さな山道も見える。そこには、来たときには気づかなかった人々の暮らしの跡があった。

 ふと山の上に白いものが見えた。山道を登っていくと、そこには小さなお墓があり、マリア様とお地蔵さまが並んで建てられてある。神道と仏教とキリスト教、さまざまなものに帰依しながら、ひっそりと、そして強くこの地で暮らしてきた者たちの息遣いが感じ取れる。白鳥の舞い降りたる社の周囲には、強く生きてきた者たちの命の証が確かにあった。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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